《2》 もうひとつのカップル5 - ナイショの妖精さん4
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《2》 もうひとつのカップル5

  29, 2021 21:24
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「綾、いっしょに帰るぞ」


 放課後。自分の席でランドセルに教科書をつめてたら、声が頭の上からふってきた。

 見あげたら、ヨウちゃん。あたしの席まで来ていて、片肩にランドセルをかついでる。ダテメガネをずっとかけると、つかれるのかな? もうはずしてる。

 きょうは、冬休み明けだから、給食を食べたら、即下校。

「お~い、これから遊びいかね~?」「行く行く~」って、教室には、明るい声が教室をとびかってる。

 ランドセルを背負って、すばやく教室から去って行くのは、私立組。きっと塾に直行。


「綾。きょうもまた、オレんちに寄ってくんだろ?」


「……え? う、うん……」


 たしかに、そのつもりではいたんだ。

 今までもよく放課後に、ヨウちゃんの家に寄っていたし。ヨウちゃんといっしょに帰ることも、めずらしくない。

 だけど、ふたりでならんで歩くのは、みんなと道が別方向に分かれてから。

 それまでは、まるで一度もしゃべったことのない他人みたいに、前後の間隔をあけて、もくもく歩いて。ヨウちゃんちのある高台の坂まで来て、やっと「話しかけられる~」って感じで。

 暗黙の了解で「いつも、ヨウちゃんちに寄ることは、みんなにはナイショ」だって、思ってた。


「なんだよ? これからは、毎日ふたりで帰るぞ。オレたち、つきあってんだからな」


 ヨウちゃんてば、また、やけに大声。

 ヘンだなと思って、視線の先を見たら、廊下に出かけていた誠が、ランドセルを背負って、教室をふり返っていた。

 誠は顔をそむけて、しょんぼり、廊下に出ていく。


 あ……そういうこと。


「ねぇ、ヨウちゃん。きょう一日、なんかカンジ悪くない? カレシアピールしてくれるのはいいけどさ。いくらなんでも、誠に敵意むきだしすぎ。そんなんじゃ、誠がかわいそうだよ」


「……あ?」


 片眉をしかめて、ヨウちゃんがあたしを見おろした。


 うわ……不機嫌まるだし。

 あたしが誠の肩を持ったから……。


 でも……でもさ。


 あたしが好きなヨウちゃんは、こんなピリピリしてる人じゃなくて。

 もっと、ふわっとやわらかく笑う人で……。


「あたし、こんな陰険な人がカレシだなんて、ヤダぁ~」


 あ、言いすぎた。


 琥珀色の目が、氷みたいに冷え込んでいく。


「ああ……そうか」


 ぼそっとつぶやいて、ヨウちゃんは背中を向けた。

 長い足が大またで、教室を遠ざかって行く。


「え? あ、待ってっ!」


 どうしようっ! やっちゃったっ!!


 追いかけたあたしの肩に、ガンッとだれかの肩がぶつかった。


「ったぁ~」


 右肩を押さえて、あたし、ちぢこまる。

 教室の入り口で、ヨウちゃんが、足をとめてふり返ってる。


 あたしとぶつかった相手も、よろけて、後ずさっていた。

 見あげたら、窪(くぼ)。ひょろっと細くて、顔は面長。細い目と長い鼻は、なんとなく江戸時代の浮世絵に出てくる人に似てる。クラスの中では、そんなにめだたないほうかな?


「和泉? 気をつけろよ」


 じろっとあたしをにらんで、窪がまた歩き出す。


 あれ……?


 窪の通りすぎたゆかを見て、あたしはしゃがみこんだ。

 うすピンクの紙が落ちている。


「待って。これ、窪の?」


 拾って折り目を開いたら、ピンクのペンで、丸い小さな文字が書かれてた。


《さとしくんへ
  塾が終わったら、駐輪場で待ってるね。きいみ》


 窪の名前は、たしか――智士(_さとし)。

 紀伊美(きいみ)っていうのは、青森さんの名前。


 青森さんは、リンちゃんの親友。で、ちょっと前まで、ヨウちゃんのことが好きで。

 告白して、フラれて。でもたしか……そのあと塾で、男子に告白されて……。今は、その男子とつきあってるって……。


「って、えええ~っ!?  じゃあ、青森さんのカレシって、窪ぉ~っ!? 」





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