
「綾、いっしょに帰るぞ」
放課後。自分の席でランドセルに教科書をつめてたら、声が頭の上からふってきた。
見あげたら、ヨウちゃん。あたしの席まで来ていて、片肩にランドセルをかついでる。ダテメガネをずっとかけると、つかれるのかな? もうはずしてる。
きょうは、冬休み明けだから、給食を食べたら、即下校。
「お~い、これから遊びいかね~?」「行く行く~」って、教室には、明るい声が教室をとびかってる。
ランドセルを背負って、すばやく教室から去って行くのは、私立組。きっと塾に直行。
「綾。きょうもまた、オレんちに寄ってくんだろ?」
「……え? う、うん……」
たしかに、そのつもりではいたんだ。
今までもよく放課後に、ヨウちゃんの家に寄っていたし。ヨウちゃんといっしょに帰ることも、めずらしくない。
だけど、ふたりでならんで歩くのは、みんなと道が別方向に分かれてから。
それまでは、まるで一度もしゃべったことのない他人みたいに、前後の間隔をあけて、もくもく歩いて。ヨウちゃんちのある高台の坂まで来て、やっと「話しかけられる~」って感じで。
暗黙の了解で「いつも、ヨウちゃんちに寄ることは、みんなにはナイショ」だって、思ってた。
「なんだよ? これからは、毎日ふたりで帰るぞ。オレたち、つきあってんだからな」
ヨウちゃんてば、また、やけに大声。
ヘンだなと思って、視線の先を見たら、廊下に出かけていた誠が、ランドセルを背負って、教室をふり返っていた。
誠は顔をそむけて、しょんぼり、廊下に出ていく。
あ……そういうこと。
「ねぇ、ヨウちゃん。きょう一日、なんかカンジ悪くない? カレシアピールしてくれるのはいいけどさ。いくらなんでも、誠に敵意むきだしすぎ。そんなんじゃ、誠がかわいそうだよ」
「……あ?」
片眉をしかめて、ヨウちゃんがあたしを見おろした。
うわ……不機嫌まるだし。
あたしが誠の肩を持ったから……。
でも……でもさ。
あたしが好きなヨウちゃんは、こんなピリピリしてる人じゃなくて。
もっと、ふわっとやわらかく笑う人で……。
「あたし、こんな陰険な人がカレシだなんて、ヤダぁ~」
あ、言いすぎた。
琥珀色の目が、氷みたいに冷え込んでいく。
「ああ……そうか」
ぼそっとつぶやいて、ヨウちゃんは背中を向けた。
長い足が大またで、教室を遠ざかって行く。
「え? あ、待ってっ!」
どうしようっ! やっちゃったっ!!
追いかけたあたしの肩に、ガンッとだれかの肩がぶつかった。
「ったぁ~」
右肩を押さえて、あたし、ちぢこまる。
教室の入り口で、ヨウちゃんが、足をとめてふり返ってる。
あたしとぶつかった相手も、よろけて、後ずさっていた。
見あげたら、窪(くぼ)。ひょろっと細くて、顔は面長。細い目と長い鼻は、なんとなく江戸時代の浮世絵に出てくる人に似てる。クラスの中では、そんなにめだたないほうかな?
「和泉? 気をつけろよ」
じろっとあたしをにらんで、窪がまた歩き出す。
あれ……?
窪の通りすぎたゆかを見て、あたしはしゃがみこんだ。
うすピンクの紙が落ちている。
「待って。これ、窪の?」
拾って折り目を開いたら、ピンクのペンで、丸い小さな文字が書かれてた。
《さとしくんへ
塾が終わったら、駐輪場で待ってるね。きいみ》
窪の名前は、たしか――智士(_さとし)。
紀伊美(きいみ)っていうのは、青森さんの名前。
青森さんは、リンちゃんの親友。で、ちょっと前まで、ヨウちゃんのことが好きで。
告白して、フラれて。でもたしか……そのあと塾で、男子に告白されて……。今は、その男子とつきあってるって……。
「って、えええ~っ!? じゃあ、青森さんのカレシって、窪ぉ~っ!? 」
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