
「あ。ねぇ、有香ちゃん。ヨウちゃんちのカフェで手づくりの小物、売ってもらうの、やめちゃったの?」
「ああ、うん、そうなの。とりあえず、服が一枚、売れたでしょ。わたし、なんだかそれで、満足しちゃってね。今はまだ、おとなの評価を求めるより、自分の実力をつむ時期かなって」
「うわ。有香って、マジメだな~」
真央ちゃんといっしょになって、あたしもしみじみ、「うんうん」。
ヨウちゃんちの一階は、自宅カフェ「つむじ風」。
店内に、有香ちゃんの手づくり雑貨のコーナーがあったんだけど、冬休みのとちゅうから、そのコーナーが消えちゃったんだ。
「――それにしても、中条君。その本にかぶせてる茶色いボロキレは、なんなの?」
教室の後ろから、リンちゃんの声がきこえてきて、あたしハッと顔をあげた。
ぼ……ボロキレ……?
そろっと、うかがったら、やっぱり。
リンちゃんが指さしてるのは、あたしがクリスマスにヨウちゃんにあげた、ブックカバー。
「あ、これ?」
ヨウちゃんの目が、ニヤっとゆがんだ。そうして、やけにはきはきと大声。
「これは、クリプレ。カノジョから。もちろん、手づくり」
ぎゃ~っ!! ヨウちゃん、やめて~っ!!
あんな、へたくそなのを、プレゼントにしちゃう、あたし。
穴があったら、入りたい……。
だけど、ヨウちゃんの視線は、リンちゃんを通り越して、黒板の前に向けられてた。
黒板の前では、誠が、教壇に座り込んで、山田としゃべってたんだけど。ヨウちゃんに気づいて、顔をあげてる。
「山田ぁ。これ、いいだろ~?」
かん高い声にまばたきしたら、今度は誠が、スウェットのポケットから、焼き物の小鈴を取り出していた。
花の絵が描いてあるんだけど、花の赤い絵の具がだら~とたれちゃってて、血のりみたい。
「これさ~、クリスマスに和泉からもらっちゃったぁ~っ!! 」
うあ~っ!! 誠ってば、やり返した~っ!!
「綾。なにふたりに、エサばらまいてんだよ」
向かいの席から、真央ちゃんがあたしをにらみつけてくる。
「エサじゃないもん。これにはいろいろわけがあるんだもん」
「にしても、どっちの作品も、クオリティーの低さが際だってるな~。幼稚園児の工作レベルだぞ。あれは、いらないな~」
グサ、グサ、グサっ!
真央ちゃんはズケズケ言っちゃうところが、気持ちいいんだけど。
こ、これ、ちょっとキツすぎ……。
「まったく。真央は、ちっともわかってないね。うまいとかヘタとかじゃないんだって。綾ちゃんがつくってくれたものなら、あの男どもは、なんだってうれしいんだって。ね~、綾ちゃん」
「え~ん。有香ちゃん~っ!! 」
「有香は、綾をあまやかしすぎ」
その間にも、教室の前と後ろで、せめぎあいはつづいてる。
「まぁな。チャチャっと絵づけくらいなら、数分で終わるしな。義理プレにはちょうどいいかもな」
「なんだよ~。そんなの、いっしょうけんめいに絵を描いてくれた和泉にしつれいじゃん~」
「オレの場合は、いっしょうけんめいに、布を切るところからだからな。やっぱ、手間がかかってんな~」
「しかし、心のせまいカレシだな~」
真央ちゃん、ため息。
「もうっ! こんなへたっくそなボロキレ、はずしちゃいなよっ!! 」
横からリンちゃんの手がのびてきて、ヨウちゃんの本を引ったくった。
「わっ!? な、なにすんだよ、#倉橋__くらはし__#っ!? 」
「わたしが、もっといいブックカバー、つくってあげるっ!」
ヨウちゃんがカバーを守ったひょうしに、本だけはずれて、ゆかにゴトン。
「あ~っ!! 」
さけんだのは、あたし。
瞬間的に立ちあがっちゃったら、背中でイスがガタンとたおれた。
真央ちゃんと有香ちゃん。だけじゃなくて、リンちゃんも誠も、ヨウちゃんまで。クラスのみんながきょとんと、あたしを見てる。
だ……だって……。
本にはきっと、「妖精」ってついた、イタイタイトルが書かれてるんだよ?
あたし、それを隠すためにブックカバーをつくったんだもん。
どうしよう! ヨウちゃんが、みんなからドン引きされちゃうっ!
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