
「あはは。葉児ってば、そんな警戒しないでも、オレ、和泉になんもしないよ? だいたい、ラブラブ期のカップルなんかに手ぇ出したって、玉砕するに決まってんでしょ! オレはかしこいからね。ヘタなことはしないの。時期をうかがって、葉児のすきをつくんだよっ!」
「誠。その作戦、言っちゃってる時点で、かしこくないから」
真央ちゃん、お腹を抱えて、ゲラゲラ。
だけど、ヨウちゃんは眉間のシワを険しくして、無言でさらに、あたしの肩を、誠から引きはなした。
そっか。やっぱり、誠ってかしこいや。
わざと言っちゃうことによって、ヨウちゃんに、すきをつくれなくしてる。
つまり、ヨウちゃんは、誠に手を出されないように、ずっと気を張ってなきゃならなくなったってこと。
「……ねぇ、そんな心配しないでも、だいじょうぶだよ?」
あたしは、モッズコートのそでぐちを、つっと引いた。
そしたらやっと、ヨウちゃんの腕があたしの肩をはなした。
かわりに、ポンって頭にのっかる、大きな手のひら。
「ほ、ほぇっ!? 」
目をつぶって、また開けたら。モッズコートの背中はもう、自分の席へ歩き出してる。
ヨウちゃん、学校では、クールなフリ。
ビビリなことも、フェアリー・ドクターだってことも、みんなにはナイショ。
休み時間。教室がざわついている。
「中条君が本読んでる……」
女子たちはみんな、ほっぺたを赤く染めて、チラチラ、一番後ろの席をふり返ってる。
そこにはヨウちゃんが座っていて、有香ちゃんみたいな黒縁メガネをかけて、左手でほおづえをついていた。
右手に持っているのは、本。
チョコレート色のブックカバーらしきものがかかった、辞書みたいにがっしりと厚い本。
ヨウちゃんって、ふだんの休み時間は、リンちゃんたち女子の取り巻きにかこまれているか。誠や大岩たちと、校庭にサッカーをしに行っているか。
学校で、本を開いたことなんてなかったのに。
「やだぁ~! メガネ男子の中条君も、カッコイイ~」
「ギャップ萌え~」
リンちゃんも青森さんも、ヨウちゃんの誘惑に負けて、参考書の前から立ちあがっちゃってる。
「ふ~ん。中条って、メガネかけるんだ。あいつって、視力悪かったっけ?」
「ダテでしょ? あたし、ヨウちゃんがメガネかけてるとこなんて、見たことないもん」
「そういえばたしか、あの人、昔、自分は両目視力2.0だって、教室で自慢してたよね」
あたしと有香ちゃんは、廊下側の真央ちゃんの席をとりかこんで、いつもどおりのまったりタイム。
それにしても、騒ぐ意味、わかんないなぁ~。
あたしは、本を読むヨウちゃんなんて、見慣れてるしさ。
髪の毛、琥珀色なのに、黒縁メガネなんかかけちゃったら、インテリきどってるチャラ男にしか見えない……。

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