《2》 もうひとつのカップル1 - ナイショの妖精さん4
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《2》 もうひとつのカップル1

  26, 2021 00:17
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 朝日を浴びる小学校の三階の廊下。にぎやかな子どもたちの声がこだましている。

 冬休み明け。

 六年生の教室の壁にはまだ、三学期の目標や、みんなの絵をはってない。そのせいで教室は、やけに寒々として見える。


「真央(まお)ちゃん、有香(ありか)ちゃん、おはよ~」


 大きな声であいさつしたら、ふり返ったふたりが、そろって口に人差し指を立てた。


「綾ちゃん、し~っ!」


「ほぇ?」


 ふたりが気にしているほうを見たら、リンちゃんや青森(あおもり)さんや窪(くぼ)や青木(あおき)たちが、もう席についていて、参考書を開いてた。


「みんな、きょうは学校に来るのが早いんだね。三学期の始業式がはじまるまで、まだ、二十分もあるよ?」


「私立中学受験組だよ。朝、一時間前から来て、補習やってたらしいぞ」


 真央ちゃんが、かなり太めの腕を組んだ。

 真央ちゃんは、態度も言葉づかいも男の子みたい。だけど、大福みたいなふっくらほっぺも、くしゃくしゃ天然パーマのボブ頭も、すごくやわらかくって、とっても女の子だと思う。


「試験まで、あと一ヶ月切っちゃったもんね。勉強に集中したいだろうから、わたしたち公立組は静かにしてようね」


 有香ちゃんも、知的な黒縁メガネを鼻の上に押しあげた。バレエできたえた、すらっと細い体。長いしなやかな手足。

 黒いつやつやの髪を、ふたつにむすんで胸にたらして。同じ歳なのに、有香ちゃんは、まるでたよれるオネエサマ。

 ふたりとも、一年生のころからのあたしの親友。


 それにしても、受験って、たいへんなんだ……。


 あのオシャレ好きなリンちゃんが。今は、ツインテールをふり乱して、目をつりあげて、赤鬼みたいなんだもん。

 青森さんも太い眉毛をしかめて、参考書をめくってる。

 教室の中でヨウちゃんの姿をさがしたけど、真ん中の列の、一番後ろの席は、まだ、からっぽだった。

 あたしたち、公立中学組は、のんきなもの。あと三ヶ月で中学生だっていうのに、勉強の量も生活のリズムも、今までとちっともかわってない。


「みんな~、おっはよ~っ!! 」


 廊下から、バタバタと足音が近づいてきたと思ったら、誠(まこと)のちびっこい体が、教室にとびこんできた。

 受験組がいっせいに顔をあげて、誠をにらみつける。


「ま、誠っ! し~っ!」


 今度はあたしも、真央ちゃんたちといっしょになって。口に人差し指を立てて。


「あれぇ? どしたの~?」


 誠は、大きな二重の目をクリクリ。



 なんか拍子抜け。

 誠とは、クリスマスに、ちょっとすごい別れ方したんだよ。

 誠ってば、「ヨウちゃんからあたしを奪って、カレシになる」みたいなこと言ったんだから。


 でも、きょうの誠は、ふだんどおり。

 おサルみたいに、丸い横に広がった大きな耳。

 綿のぬけかかった紺色のダウンジャケットを着て。パジャマみたいなグレーのスウェットをはいて。うわばきのかかとを踏みつぶして。


 クリスマスのときみたいな、オシャレなかっこうをしていれば、アイドル好きの女子たちの目だって、かわってくるだろうにさ。



「おまえら、教室の入り口でなにやってんだよ?」


 しらけた低い声にふり返ったら、ヨウちゃんがドア枠に腕でもたれてた。

 モッズコートのポケットに左手だけつっこんで、右肩にグレーのランドセルをかけている。

 こっちのほうは、いつ、だれが見ても、イケメンなんだよね。

 服は、たいてい白か黒かグレーのトレーナーにジーンズで、たいして気をつかってないみたいなのにさ。顔立ちがイギリス人で、背がすらっと高いもんだから。いろいろ得してる。


「あ、ヨウちゃん、おはよ~」


「にこ~」って、笑いかけたけど、ヨウちゃん、眉をひそめて、怖い顔。

 ぐいっと、後ろに肩を引かれたと思ったら、ヨウちゃんは、あたしと誠の真ん中に、ヌリカベみたいに立ちはだかった。


 わ……敵意むきだし……。


公開用 4巻 葉児割込み_2



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