
……信じられない。
さっきのヨウちゃんの言葉が、あたしの足元をふわふわさせる。
あんなに強い言葉。あたし、言われちゃっていいのかな……?
――ふ~ん。おたがいフェアでいきたいってことぉ?――
時計塔のバルコニーで、誠は腕を組んで、ヨウちゃんと向かい合った。
――自信あるんだ? ううん、自分への戒め? どっちでもいいけど。そこまで言うなら、オレもあきらめないからね――
笑った誠は、いつものへらへら笑顔じゃなくって、口のはじをむりやりあげたみたいな、勝気な笑みだった。
――和泉ぃ、もういいよ。きょうの海賊ごっこは、これでおしま~い。遅くまでつきあわせちゃって、ごめんね。じゃあ、よいクリスマスと年越しを。冬休みが明けたら、オレは友だちじゃなくって、和泉のカレシから、和泉を奪いたいイヤ~なオトコだから。ヨロシク~――
へらっと、いつもの笑顔にもどって、手をふって。
道路を小さくなっていった、誠の自転車。
次の駅行きのバスが、ベイランドの入場門に到着するのは、六時半。
十数分の時間つぶしで、あたしとヨウちゃんは、外の港をぷらぷらしている。
海にそってベンチがならんでいて。そのベンチを緑色の街灯の明かりが、ぽつん、ぽつんと照らしてる。
「あ~あ。なんか、慌ただしいクリスマスになっちゃったね。こんな時間だし。帰ったら、カンペキ、ママに『いつまでほっつき歩いてんの!』って、怒られるよ~!」
夜空に両腕をつきあげて、のびをしたけど。
ヨウちゃんは「……うん」って、上の空。
ふり返ったら、ヨウちゃんは、ジャケットのポケットに両手をつっこんで、横目でなにかを気にしてた。
そっちを見たら、ベンチに座ったカップルが、プレゼントを交換してる。
「……あ。……あのね……。ヨウちゃんへのクリスマスプレゼントはね。……その……言いにくいんだけど……」
「ああ、いいよ。オレのは、ないんだろ? おまえが誠を優先するのには、もう慣れた」
つっと視線をそむけて、ヨウちゃんは海を見る。
チクチク、あたしの胸は痛いのに。街灯に照らされる鼻筋の通った横顔は、無表情。
「もうっ! 勝手に決めつけないでっ!! 」
あたしは、ポシェットを開けて、中から深緑色の紙の包みを取り出した。
ずっと小さいポシェットに押し込めてきたから、やっぱり、包装紙がよれよれになっちゃってる。自分で結んだ銀のリボンが、へろんへろん。
う~……なさけない。
「ヨウちゃん、はい! クリスマスプレゼントっ!! でも、ごめんね、中身は期待しないでっ!」
「……え? マジで……?」
そっと包みを手にとって、ヨウちゃん、その場でリボンをほどいていく。
ヤダ、もうっ!!
今すぐここから、逃げ出して、自分のベッドにもぐりこみたい!
包装紙から出てきたのは、チョコレート色の布のブックカバー。
有香ちゃんちでミシンを借りて、教えてもらって、いっしょうけんめいに縫ったもの。
だけど、縫い目、ガタガタ。有香ちゃんのお手本みたいに、ピシッパシッと四角くできなくて。
これじゃまるで、お湯にふやけたおモチ。
「ヨウちゃん最近、妖精の本、読んでるでしょ? でも、題名が題名なだけに、外では、まわりを気にして読めないと思うから。このカバーをかければ、外でも読めるかなって。
……って思って、つくったんだけどね……。これじゃ逆効果だよね。『なんだあの、おどろおどろしいボロキレは?』って、ドン引きされちゃうよね……」
「……たしかに、けっこうおどろおどろしいな……」
ヨウちゃん、ぼそり。
うわ~ん……。
頭の上に、岩がふってきた気分。
「……ウソだよ。つかうよ。ありがとう」
ヨウちゃんが顔をあげた。
あ……口元、ふんわり笑ってる。目頭で涙がキラキラしてて、ダイヤモンドの粒みたい。
「……オレも」
鼻をすすって、ヨウちゃんがジャケットのポケットをあさった。
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