《4》 永遠の子どもの国からの脱出13 - ナイショの妖精さん3
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《4》 永遠の子どもの国からの脱出13

  02, 2021 21:47
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 ……信じられない。


 さっきのヨウちゃんの言葉が、あたしの足元をふわふわさせる。


 あんなに強い言葉。あたし、言われちゃっていいのかな……?




――ふ~ん。おたがいフェアでいきたいってことぉ?――


 時計塔のバルコニーで、誠は腕を組んで、ヨウちゃんと向かい合った。


――自信あるんだ? ううん、自分への戒め? どっちでもいいけど。そこまで言うなら、オレもあきらめないからね――


 笑った誠は、いつものへらへら笑顔じゃなくって、口のはじをむりやりあげたみたいな、勝気な笑みだった。


――和泉ぃ、もういいよ。きょうの海賊ごっこは、これでおしま~い。遅くまでつきあわせちゃって、ごめんね。じゃあ、よいクリスマスと年越しを。冬休みが明けたら、オレは友だちじゃなくって、和泉のカレシから、和泉を奪いたいイヤ~なオトコだから。ヨロシク~――


 へらっと、いつもの笑顔にもどって、手をふって。

 道路を小さくなっていった、誠の自転車。




 次の駅行きのバスが、ベイランドの入場門に到着するのは、六時半。

 十数分の時間つぶしで、あたしとヨウちゃんは、外の港をぷらぷらしている。

 海にそってベンチがならんでいて。そのベンチを緑色の街灯の明かりが、ぽつん、ぽつんと照らしてる。


「あ~あ。なんか、慌ただしいクリスマスになっちゃったね。こんな時間だし。帰ったら、カンペキ、ママに『いつまでほっつき歩いてんの!』って、怒られるよ~!」


 夜空に両腕をつきあげて、のびをしたけど。

 ヨウちゃんは「……うん」って、上の空。


 ふり返ったら、ヨウちゃんは、ジャケットのポケットに両手をつっこんで、横目でなにかを気にしてた。

 そっちを見たら、ベンチに座ったカップルが、プレゼントを交換してる。


「……あ。……あのね……。ヨウちゃんへのクリスマスプレゼントはね。……その……言いにくいんだけど……」


「ああ、いいよ。オレのは、ないんだろ? おまえが誠を優先するのには、もう慣れた」


 つっと視線をそむけて、ヨウちゃんは海を見る。

 チクチク、あたしの胸は痛いのに。街灯に照らされる鼻筋の通った横顔は、無表情。


「もうっ! 勝手に決めつけないでっ!! 」


 あたしは、ポシェットを開けて、中から深緑色の紙の包みを取り出した。

 ずっと小さいポシェットに押し込めてきたから、やっぱり、包装紙がよれよれになっちゃってる。自分で結んだ銀のリボンが、へろんへろん。


 う~……なさけない。


「ヨウちゃん、はい! クリスマスプレゼントっ!!  でも、ごめんね、中身は期待しないでっ!」


「……え? マジで……?」


 そっと包みを手にとって、ヨウちゃん、その場でリボンをほどいていく。


 ヤダ、もうっ!!

 今すぐここから、逃げ出して、自分のベッドにもぐりこみたい!



 包装紙から出てきたのは、チョコレート色の布のブックカバー。

 有香ちゃんちでミシンを借りて、教えてもらって、いっしょうけんめいに縫ったもの。

 だけど、縫い目、ガタガタ。有香ちゃんのお手本みたいに、ピシッパシッと四角くできなくて。

 これじゃまるで、お湯にふやけたおモチ。


「ヨウちゃん最近、妖精の本、読んでるでしょ? でも、題名が題名なだけに、外では、まわりを気にして読めないと思うから。このカバーをかければ、外でも読めるかなって。

……って思って、つくったんだけどね……。これじゃ逆効果だよね。『なんだあの、おどろおどろしいボロキレは?』って、ドン引きされちゃうよね……」


「……たしかに、けっこうおどろおどろしいな……」


 ヨウちゃん、ぼそり。


 うわ~ん……。


 頭の上に、岩がふってきた気分。


「……ウソだよ。つかうよ。ありがとう」


 ヨウちゃんが顔をあげた。


 あ……口元、ふんわり笑ってる。目頭で涙がキラキラしてて、ダイヤモンドの粒みたい。



「……オレも」


 鼻をすすって、ヨウちゃんがジャケットのポケットをあさった。






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