
「あたしがカッコイイなって思うのは、素直なヨウちゃん。ビビリでヘタレで。だけど真面目で、いっしょうけんめいなヨウちゃん」
パッと、大きな左手があたしの手からはなれた。
「ヤバ……今、突かれた……」
ヨウちゃん、両腕で顔を隠して、あたしから体をそむけてる。
ど、どうしよう……広い肩が、小刻みに震えちゃってて。
あたしの胸もきゅきゅきゅ~ん。
「……あのさぁ~。ふたりとも、いつまでそこで、イチャついてる気~?」
てっぺんにもれていた明かりが、人影でさえぎられた。
開いたドアで、誠が仁王立ちして、あたしたちを見おろしてる。
「声、上までつつぬけで、チョーうるさいんだけど。オレに気づかれないように近づかないと、またオレが逃げちゃわないかとか。そういう気づかいもできないわけ~?」
う……。
はじめはあったんだけどね。
ヨウちゃんも、気まずそうに首後ろに手を置いて、しらり顔。
誠がいるあそこは、時計塔の展望台に出るドアだと思う。非公開の行き方、誠は知ってたんだ。
「ってことは、誠。もしかして、ずっとそこで、園内のあたしの行動を監視してたの?」
「え~? たまには、別の場所に移動したりもしてたよ~。でも、たいてい、ここから見おろせば、和泉がなにしてるかわかったからね。電話のときだけ、おりてたんだ」
そんなんじゃ、見つかりっこないって。
「誠。とにかく、あたしは、見つけたからね。もうこんな、へんなお遊びはおしまいにして」
あたしは、のこりの螺旋階段をカンカンのぼっていった。
誠の前に立ったら、冷たい夜風が、前髪をかきあげた。
レンガの壁に、大きな文字盤がはりついている。
そのまわりをとりかこむ、展望バルコニー。
子どもの国の夜景をバックに、腕を組んで立つ誠は、黄緑色のダウンジャケットに、緑と白のマフラーをぐるぐる巻きにして。まるで、本物のピーターパン。
「和泉ぃ。こないだの劇のとき、オレ、和泉に『おとなになんかなる必要はない』って言ったよね? おとなになんかなって、恋とか愛とかしたって、苦しいばっかりだって。ちょっと、オレに言われて改心したからってさ。こんな葉児なんかが、本当に、和泉を幸せにできる思う?」
階段をのぼってきたヨウちゃんが、うつむく。琥珀色の髪が、夜風に舞っている。
「ねぇ、和泉。もうさ。恋とか愛とかわすれちゃって、オレといっしょに、ず~っと、子どものままでいようよ。オレなら、いつでも和泉を笑わせられる。和泉は、子どもの世界で、ただ楽しんで、笑ってればいいんだよ」
「……誠……」
誠って、やっぱりスゴイ。
堂々と「自分はあたしを笑わせられる」なんて言える人。
……でも……。
「――ごめん、誠。それはムリだよ」
あたしは、正面切って誠を見つめた。
「あたしはもう、恋をしちゃったんだから、今さら、子どもにはもどれない。
誠だってそうでしょ? 子どもの世界で楽しんでるふりをしてるけど、本気で楽しんでなんかない。だって誠、きょう、ずっとイライラしてるよ。あたしとヨウちゃんが、仲いいことに、イライラして。あたしが、自分を見てないことに、イライラして。誠の胸の中、たぶんドロドロで、苦しくて、つらくて、もがいてる。
それって、恋だよね? 誠はピーターパンじゃない。誠だって、イヤでもなんでも、もうおとなの道へ、足を踏み出しちゃってるんだよ」
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