
レンガ造りの壁の内部を、螺旋階段がつづいてく。
明り取りの窓が等間隔に開いていて、たよりは、そこからもれてくる遊園地のイルミネーションの明かりだけ。
「ねぇ……勝手に入っちゃって、遊園地の人に怒られないかな~?」
鉄の階段をのぼりながら、小声で後ろをふり返ったら、ヨウちゃんが口の前に人さし指をたてた。
うず巻いてる螺旋階段のてっぺんから、小さな明かりがもれてくる。
誠はきっと、あそこにいる。
ガタガタ、風が窓ガラスをゆらした。
「うわっ!」ってヨウちゃんてば、さけびそうになって、あわてて自分の口を両手で押さえてる。
あれ? もしかして、ビビリ作動中?
よく見たら、へっぴり腰で、ふらふら。さっきのキツネみたいな動きがウソみたい。
も~。ゾンビなんか出てこないってば~。
あたしは右手をのばして、ヨウちゃんの左手をつかんだ。
三段下から見あげてくる、ちいちゃな子みたいに弱々しい目。
ぷ。今だけ、あたしのほうがおねえさん……。
きゅっと手に力を込めたら、ヨウちゃんも力を込めて、にぎり返してきた。
く……胸、苦しい……。
息をひそめてのぼっていく鉄階段。そっとのぼってもカンカンって、音が出ちゃう。
「……綾。ごめんな……」
「……え?」
「いつも……ごめん……」
あたしは、自分の背中をふり返った。
窓明かりだけのうす闇の中で、琥珀色の髪がうつむいてる。
「それ……どういう意味……?」
「……誠の言うとおり……って意味」
――だいたい葉児ってさ、自分の気持ちばっかり表に出して、和泉に押しつけて……自分に余裕がないのもわかるけど、それって、オトコとしてどうなの? はずかしいからって、自分はなんの努力もしないで、なのに独占欲ばっかりむきだしって。そんなの恋愛じゃなくって、ただのがめついジャイアンだよっ!! ――
さっきの誠の声が、胸によみがえってくる。
傷ついてたんだ……ヨウちゃん……。
「いいよ。あたしだって、ヨウちゃんと同じだもん。ヨウちゃんがリンちゃんたちといるだけで、イライラして。勝手なかんちがいで、有香ちゃんのことをうらやんで。
なのに、あたし……ヨウちゃんに言えてない。フック船長のヨウちゃんが、すごくカッコよかったとか……。きょうのヨウちゃんのカッコに、今もドキドキしてるとか……。本当は思ってるのに、はずかしすぎて、言えない……」
「……え? 綾って、そもそもオレのこと、カッコイイとか思ってんの?」
「……ほぇ?」
間の抜けた声にまたふり返ったら、ヨウちゃんは、ハトが豆鉄砲くらったように、きょとんとあたしを見あげてた。
「……ウソ。知らなかったの?」
「知るかよっ! だって、おまえ、ほかの女子がどんなにオレのトコ寄ってきたって、ぜんぜん、興味ナシだったじゃねぇかっ! おまえら三人グループは、オレのことなんか、むしろ、嫌ってたろっ!? 」
「嫌いもするよっ! ちょっと顔がいいくらいで、女子はべらかして、イチャイチャ、イチャイチャ。って、愛想よくしてるならまだしも、本人は、上から目線で、エラそうにっ! あんなの、どこがカッコイイのよっ!! 」
「……だろ? だったら、なんで……」
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