
「そうだよ、こまらせたいわけじゃない。オレはただ、和泉を不幸から救ってあげたいだけだよ」
ヨウちゃんが耳につけたケータイから、誠の大きな声がもれてくる。
「はぁ? 不幸……?」
「あれぇ? 葉児って、自分が和泉を不幸にしてるって自覚ないの~? 和泉はさ、幸せな家庭に育った、幸せな子なんだよ。幸せに笑うことができる。だけど、葉児のことになると、つらい顔してばっかりじゃないか。
だいたい葉児ってさ、自分の気持ちばっかり表に出して、和泉に押しつけて来るよね。いっつも、和泉に顔色うかがわせちゃってさ。自分に余裕がないのもわかるけど、それって、オトコとしてどうなの? オトコならもっと、女の子をほめたり、よろこばせてあげたりすることも大事なんじゃないの?
はずかしいからって、自分はなんの努力もしないで、なのに独占欲ばっかりむきだしって。そんなの恋愛じゃなくって、ただのがめついジャイアンだよっ!! 」
先行くヨウちゃんが立ちどまった。
あたしも立ちどまる。
誠の声は、ケータイ越しじゃなくって、外から直接きこえてくる。
豆汽車のレールが通っていた。その横に、フードコート。シャッターはすべて閉まっていて、ホットドッグののぼりだけが、夜風にあおられている。
お店に置かれた、一台の公衆電話の前で、黄緑色のダウンジャケットがあたしたちから背を向けてる。
「もしもし、葉児ぃ? きいてる~?」
だけど、ヨウちゃんはケータイを耳からおろした。
「……誠」
ダウンジャケットの背中に、直接呼びかける。
バッと、誠がふり返った。
クリクリの目が、ヨウちゃんを見て、あたしを見る。
受話器を置いたとたん、誠は走り出した。
「待てよっ! 往生際わりぃっ!」
誠は、時計塔のほうへ走っていく。
ヨウちゃんの足が、前にとびだした。
はやっ!
ウサギを追うキツネみたい。あっという間に、誠との距離が縮まる。
誠は、時計塔の後ろにまわりこんだ。
ヨウちゃんもつづいてまわりこむ。
だけど、そこで足をとめた。
「……あれ? 誠のヤツ、どこ行った……?」
歩きづかれの足であたしが追いついたころには、ヨウちゃんは首後ろに手を置いて、あたりをキョロキョロ見回してた。
目の前は、レンガ造りの時計塔の壁がそびえてるだけ。
「入れそうなところっていったら、ここしかないよね……?」
時計塔の一番下についた、錆びた鉄板のドア。
どう見ても、「作業員以外は立ち入り禁止」って感じなんだけど。
そっとドアノブを回して、引く。
「……開いた」
真っ暗闇の内部に、ごっくりつばを飲み込んだ。
次のページに進む
前のページへ戻る
コミカライズ版もあります!!
【30日まで1巻が30%OFF】

【漫画シーモア】綾ちゃんはナイショの妖精さん

【漫画kindle】綾ちゃんはナイショの妖精さん
【漫画動画1巻1話】

にほんブログ村

児童文学ランキング
スポンサーサイト