《4》 永遠の子どもの国からの脱出8 - ナイショの妖精さん3
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《4》 永遠の子どもの国からの脱出8

  25, 2021 22:12
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「そうだよ、こまらせたいわけじゃない。オレはただ、和泉を不幸から救ってあげたいだけだよ」


 ヨウちゃんが耳につけたケータイから、誠の大きな声がもれてくる。


「はぁ? 不幸……?」


「あれぇ? 葉児って、自分が和泉を不幸にしてるって自覚ないの~? 和泉はさ、幸せな家庭に育った、幸せな子なんだよ。幸せに笑うことができる。だけど、葉児のことになると、つらい顔してばっかりじゃないか。

だいたい葉児ってさ、自分の気持ちばっかり表に出して、和泉に押しつけて来るよね。いっつも、和泉に顔色うかがわせちゃってさ。自分に余裕がないのもわかるけど、それって、オトコとしてどうなの? オトコならもっと、女の子をほめたり、よろこばせてあげたりすることも大事なんじゃないの?

はずかしいからって、自分はなんの努力もしないで、なのに独占欲ばっかりむきだしって。そんなの恋愛じゃなくって、ただのがめついジャイアンだよっ!! 」


 先行くヨウちゃんが立ちどまった。

 あたしも立ちどまる。

 誠の声は、ケータイ越しじゃなくって、外から直接きこえてくる。


 豆汽車のレールが通っていた。その横に、フードコート。シャッターはすべて閉まっていて、ホットドッグののぼりだけが、夜風にあおられている。

 お店に置かれた、一台の公衆電話の前で、黄緑色のダウンジャケットがあたしたちから背を向けてる。


「もしもし、葉児ぃ? きいてる~?」


 だけど、ヨウちゃんはケータイを耳からおろした。



「……誠」


 ダウンジャケットの背中に、直接呼びかける。

 バッと、誠がふり返った。

 クリクリの目が、ヨウちゃんを見て、あたしを見る。


 受話器を置いたとたん、誠は走り出した。


「待てよっ! 往生際わりぃっ!」


 誠は、時計塔のほうへ走っていく。

 ヨウちゃんの足が、前にとびだした。


 はやっ!


 ウサギを追うキツネみたい。あっという間に、誠との距離が縮まる。

 誠は、時計塔の後ろにまわりこんだ。

 ヨウちゃんもつづいてまわりこむ。


 だけど、そこで足をとめた。


「……あれ? 誠のヤツ、どこ行った……?」


 歩きづかれの足であたしが追いついたころには、ヨウちゃんは首後ろに手を置いて、あたりをキョロキョロ見回してた。

 目の前は、レンガ造りの時計塔の壁がそびえてるだけ。


「入れそうなところっていったら、ここしかないよね……?」


 時計塔の一番下についた、錆びた鉄板のドア。

 どう見ても、「作業員以外は立ち入り禁止」って感じなんだけど。

 そっとドアノブを回して、引く。


「……開いた」


 真っ暗闇の内部に、ごっくりつばを飲み込んだ。




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