
「おまえな。このオレに、あのバケモンの、ナゾの病気を治す能力があると思うか?」
「……そ、それは……」
たしかに、まったくなさそう。
でもあの子は、そう思っちゃったみたいなんだよね。
「わかったら、きのう見たものはわすれろ。オレもわすれる。オレらはきっと、同じ夢でも見たんだ」
なにその、強引な解釈。
頭にチラッと、もうひとりの、琥珀色の目をした人の顔がかすめた。
妖精の子はもしかして、中条のことを、「顔がよく似ただれか」とカン違いしたのかな……?
「わかった。もう、中条にはたのまない。そのかわり、お父さんに会わせて」
「……は?」
「仕事に行ってるなら、お父さんが帰ってくるまで、あたし、中条の家で待つから」
これって、賭け。
記憶の中の男の人が、本当に中条のお父さんなのかは、わかんない。でも、琥珀色の目の人なんて、こんな日本のすみっこにゴロゴロいない。
「あたし、小さいころ、中条のお父さんに会ったことがあるの。浅山で妖精にかこまれてた」
中条の口が開きかける。だけど、また口を閉じて、ごくっとのどぼとけがさがる。
なによ! 今度は、だんまりっ !?
ムカついて、頭の血がカァーっ !!
「いいよっ! お父さんに会わせてくれないなら、校内放送で『中条葉児は、ベイランドのオバケ屋敷でも怖がるビビリだ!』ってさけんでやる~っ!! 」
「う、うわぁああっ 待て、待て、待てぇ~っ !!」
あたし、肩で息をついて、ぜえぜえ。
中条もこめかみから汗を流して、ぜえぜえ。

「はぁ」と息をはきだして、中条は、両手をジーンズのポケットにつっこみ直した。
また無視されるのかと思ったけど、なんかちがう。目に力がこもってない。ただ、足元の小石を見おろしてる。
「……とうさんは、死んだ。オレが四歳のときに。事故で」
「え?」
「……ついてこい」
中条が背を向ける。グレーのランドセルを片肩にかけた黒いTシャツが、大またで歩きだす。
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