《4》 永遠の子どもの国からの脱出7 - ナイショの妖精さん3
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《4》 永遠の子どもの国からの脱出7

  23, 2021 21:15
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 ピロロンとケータイが鳴った。


 ヨウちゃん、ハッと、まばたきする。

 金縛りが解けた気分で、あたしも自分のポシェットを見おろした。


 ケータイには「公衆電話」って文字。


「も、もしもし、誠ぉ?」


 今さら熱くなってくるほっぺを、手で隠しながら出てみたら、誠の声、さっきより荒っぽかった。


「ちょっと、和泉ぃ。なにやってんだよ~っ!?  葉児と観覧車なんか乗っちゃって。それって、完全にデートじゃん。オレのことはどうでもいいわけっ!?  も~、怒った。本気で和泉のお宝、捨てちゃうからっ!! 」


「ま、誠っ!?  そこから、見えてるの? ねぇ、いいかげんに教えてっ! どこにいるのっ!? 」



「……綾」


 正面でヨウちゃんがつぶやいた。


「……え?」


 そっちに顔を向けたら、ヨウちゃんは窓の外を指さしてる。


 誠がいるの……?


 声に出してないあたしの問いに、ヨウちゃんは無言でうなずく。

 ケータイに耳をつけたまま、あたしもヨウちゃんの指の先を見おろした。


 ベイランドの中心にある時計塔。この観覧車のてっぺんより、時計塔の文字盤のほうが高い位置にあるくらい。

 その下は幼児向けのスペースで、豆汽車が、ゆっくりゆっくり動いてる。

 今はもう閉まっているフードコートの横に、公衆電話が置かれてた。

 その前に、黄緑色のダウンジャケットの背中がある。


 ……誠。


 ゴンドラが地上におりきるまで、あとニ、三分。

 ヨウちゃんの口が動く。声に出さないで「長引かせろ」。


「も、もしもし? 誠、お願いだから、そんなに熱くならないで。あたしたちはね、ちょっとゆっくり、誠と話がしたいだけなの。だから、逃げまわってないで、そろそろ出てきてよ。もう、暗くなっちゃったよ。早く家に帰らなきゃ、あたし、ママに怒られちゃう」


「……そんなの知らないよ。遅くなったのは、見つけらんない和泉が悪いんじゃん」


 誠、電話の向こうでふてくされてる。


「でもさ、誠だって、帰るのがあんまり遅くなったら、お母さんが家で心配するでしょ? クリスマスなんだし、ケーキ買って待ってるんじゃない?」


「……待ってない。残念ながら、うちのお母さん、きょうは、クリスマスの短期パートつめこんでるから、いつもより帰ってくるのが遅いんだ。和泉んとこみたいな、シアワセナ家庭といっしょにしないでくれる?」


 ズキッと胸が痛んだ。


「……ごめん。あたし、そんなつもりじゃなくて……」


 誠はひとり親だけど、一度もつらいそぶりをしたり、両方そろっている家庭をひがんだりすることはなかった。


 ……あたしのせいだ……。


 あたしがヨウちゃんといっしょにいることが、誠のブラックな本音を引きだしちゃってる。


「……綾。電話、貸せ。かわる」


 キイ……。


 ゴンドラのドアが外側から開いた。


「はい。お帰りなさい~」


 係員のお兄さんの高い声。


「わっ、わっ、わっ 」


 降り口のまぶしい蛍光灯に頭が切りかわらないまま、あたしたちはゴンドラの外へ、引っぱり出される。


「あれ~? 和泉たち、もしかして観覧車からおりたの~? ふたりっきりの世界、終わっちゃったね~」


 出口の階段を小走りでおりながら、ヨウちゃんが横からあたしのケータイを取りあげた。


「おい、誠! おまえ、ホントになにがしたいんだ? おまえだって、綾をこまらせたいわけじゃないんだろっ!? 」



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