
ピロロンとケータイが鳴った。
ヨウちゃん、ハッと、まばたきする。
金縛りが解けた気分で、あたしも自分のポシェットを見おろした。
ケータイには「公衆電話」って文字。
「も、もしもし、誠ぉ?」
今さら熱くなってくるほっぺを、手で隠しながら出てみたら、誠の声、さっきより荒っぽかった。
「ちょっと、和泉ぃ。なにやってんだよ~っ!? 葉児と観覧車なんか乗っちゃって。それって、完全にデートじゃん。オレのことはどうでもいいわけっ!? も~、怒った。本気で和泉のお宝、捨てちゃうからっ!! 」
「ま、誠っ!? そこから、見えてるの? ねぇ、いいかげんに教えてっ! どこにいるのっ!? 」
「……綾」
正面でヨウちゃんがつぶやいた。
「……え?」
そっちに顔を向けたら、ヨウちゃんは窓の外を指さしてる。
誠がいるの……?
声に出してないあたしの問いに、ヨウちゃんは無言でうなずく。
ケータイに耳をつけたまま、あたしもヨウちゃんの指の先を見おろした。
ベイランドの中心にある時計塔。この観覧車のてっぺんより、時計塔の文字盤のほうが高い位置にあるくらい。
その下は幼児向けのスペースで、豆汽車が、ゆっくりゆっくり動いてる。
今はもう閉まっているフードコートの横に、公衆電話が置かれてた。
その前に、黄緑色のダウンジャケットの背中がある。
……誠。
ゴンドラが地上におりきるまで、あとニ、三分。
ヨウちゃんの口が動く。声に出さないで「長引かせろ」。
「も、もしもし? 誠、お願いだから、そんなに熱くならないで。あたしたちはね、ちょっとゆっくり、誠と話がしたいだけなの。だから、逃げまわってないで、そろそろ出てきてよ。もう、暗くなっちゃったよ。早く家に帰らなきゃ、あたし、ママに怒られちゃう」
「……そんなの知らないよ。遅くなったのは、見つけらんない和泉が悪いんじゃん」
誠、電話の向こうでふてくされてる。
「でもさ、誠だって、帰るのがあんまり遅くなったら、お母さんが家で心配するでしょ? クリスマスなんだし、ケーキ買って待ってるんじゃない?」
「……待ってない。残念ながら、うちのお母さん、きょうは、クリスマスの短期パートつめこんでるから、いつもより帰ってくるのが遅いんだ。和泉んとこみたいな、シアワセナ家庭といっしょにしないでくれる?」
ズキッと胸が痛んだ。
「……ごめん。あたし、そんなつもりじゃなくて……」
誠はひとり親だけど、一度もつらいそぶりをしたり、両方そろっている家庭をひがんだりすることはなかった。
……あたしのせいだ……。
あたしがヨウちゃんといっしょにいることが、誠のブラックな本音を引きだしちゃってる。
「……綾。電話、貸せ。かわる」
キイ……。
ゴンドラのドアが外側から開いた。
「はい。お帰りなさい~」
係員のお兄さんの高い声。
「わっ、わっ、わっ 」
降り口のまぶしい蛍光灯に頭が切りかわらないまま、あたしたちはゴンドラの外へ、引っぱり出される。
「あれ~? 和泉たち、もしかして観覧車からおりたの~? ふたりっきりの世界、終わっちゃったね~」
出口の階段を小走りでおりながら、ヨウちゃんが横からあたしのケータイを取りあげた。
「おい、誠! おまえ、ホントになにがしたいんだ? おまえだって、綾をこまらせたいわけじゃないんだろっ!? 」
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