《4》 永遠の子どもの国からの脱出6 - ナイショの妖精さん3
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《4》 永遠の子どもの国からの脱出6

  19, 2021 22:14
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「……綾っ!」


 イルミネーションで彩られた入り口の大広場を、背の高い影が走ってくる。

 風になびくさらっさらの琥珀色の髪。


「ヨウちゃん、来てくれてありがとうっ!」


 あたしは、巨大クリスマスツリーの前で、ヨウちゃんのそばにかけ寄った。


 電話してから、二十八分。

 ヨウちゃんは、ひざに両手をついて、ハアハア息を整えてる。

 家から地元の駅に出て。そこから、遊園地の直通バスに乗って。バス停からここまで走ってきてくれたんだ。


 かがんでいた上半身を起こした長身に、あたしの心臓、ズキューンってうち抜かれた。


 だれ、この人……?


 いつもはヨウちゃん、ジーンズに黒かグレーか白のトレーナーを着てるだけなんだよ? その上は、たいてい、黒のウインドブレーカー。

 なのにさ。今は、ライダーみたいな黒いスキニーパンツをはいてる。はおってるのも、タイトな腰丈のグレーのジャケット。中にはダークグレーのVネックのカットソー。

 もともと、細身で足が長いから、それがきわだっちゃって。


「ヨウちゃんて……そんな服も持ってたんだ……」


 ぽっぽって、ほてるほっぺを隠すためにうつむいたら、「……おまえな」ってため息。


「……悪いかよ? てか、そっちこそ、なんだよそのカッコ。誠のためか?」


「……え?」


 自分のポンチョを見おろしてみる。

 顔をあげたら、ヨウちゃんは、口元を腕で隠して、眉をひそめてた。


「言っとくけど、オレはいつも、スニーカーにトレーナーにショートパンツの綾ぐらいしか見てねぇんだぞっ!」


 あれ? ヨウちゃんのほっぺた、赤い。


 もしかして……「カワイイ」とか思ってくれてる……?


「な、なによっ! だれのためとかじゃなくって、遊園地に来るんだから、あたしだって、少しくらいがんばって、オシャレするもんっ! じゃあ、ヨウちゃんは、あたしに見せるために、きょうは、そんなカッコしてきたのっ!? 」



「……そうだよ」


 えっ!?


 ヨウちゃん、ぷいっと背中を向けた。


「う、ウソっ !? い、今……」

「行くぞ! 誠をさがすんだろっ!」


 強引に言葉をかぶせて、ヨウちゃんはさっさと歩き出す。


 うわ~……っ!!


 会って数分で、すでに、心臓がはちきれそう。


 熱いほっぺたを冷たい指先で覚ましてたら、あたしのポシェットでケータイが鳴った。

 あわてて取り出したら、公衆電話から。


「ま、誠だっ! まだ一時間たってないのにっ!! 」


 あたしの声に、ヨウちゃんがふり返る。


「綾、通話の声、スピーカーから流せ」


「う、うん」


 慣れないボタン操作でわたわたしながら、なんとかスピーカーホンに切りかえたら。

 ワッと誠の声が、ケータイから外にもれだした。


「お~い、和泉ぃ? なんで、葉児なんか呼んじゃってんの~? ズルくない~? きょうは、オレとふたりで遊ぶ約束だったのに~」


 あ……声、トゲトゲ。

 サボテンになったみたいに、誠のトゲが体中にささって、ズキズキ痛い。


「ま、誠、ごめんね。でも、あの……」


「ねぇ、観覧車のチケットっていくら?」


 誠の声の後ろに、知らない女の人の声が入って、ハッとした。


「パスポートがあれば、追加料金なしで乗れますよ。観覧車代だけだと、八百円です」


 おとなの男の人の声が、静かに受け答えしてる。


 もしかして、誠のいる場所って……。


 顔をあげたら、ヨウちゃんと目が合った。


「観覧車っ!」


 通話がぷつんと切れる。


「ヨウちゃんっ! 観覧車の横に、公衆電話があるっ!」


「そこだっ!! 」




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