《4》 永遠の子どもの国からの脱出5 - ナイショの妖精さん3
fc2ブログ

《4》 永遠の子どもの国からの脱出5

  18, 2021 21:38
2021032617.jpg



 あたしは、ポシェットからキッズケータイを取り出した。登録してきた、ヨウちゃんちの電話番号。ピッとボタンを押して、電話をかける。


 プルルルル……プルルルル……。


 耳の奥に鳴りひびく呼び出し音。

 三回目で、「……はい。中条です」って、低い声が出た。


 うわっ! 本人っ!


 いつもはたいてい、「は~い、中条でございます」って、お母さんの明るい声がするんだけど。


「……あの……ヨウちゃん? あたし、綾……」


 ドキン、ドキン、心臓が鳴る。

 本当、電話って慣れない。だって、今、電話の向こうでヨウちゃんがどんな顔してるのか、わかんない。


「あのね……今ね、まだ……ベイランドなの……。きょうはもう、会えないと思う……。たぶん、このまま夜になっちゃう……」


「……誠と、いるのか……?」


 ヨウちゃんの声、かすれてる。


「……ううん。誠が、見つからないの……」


 あたしの目から涙がこぼれて、ケータイをぬらした。


「誠は……つらいときに、あたしのそばにいてくれた。あたしを……元気にしてくれた。だからあたし、誠に『ありがとう』って伝えたい……。誠が、『もう行ってもいい』って言ってくれなきゃ、あたし、ヨウちゃんのところに行けないよ~……」


「ちょっと待て。綾、今、どういう状況なんだよ?」


「あ……あのね……」


 ズッと鼻をすすって、あたしは、ヨウちゃんに今朝からのことを話した。

 誠が「海賊ごっこ」をはじめたこと。ベイランドのどこかに隠れていること。どんなにがんばっても、見つからないこと。


「……わかった。オレもそこに行く」


「で、でも……ヨウちゃんまで巻き込んじゃ……」


「オレのことでもあるだろ? 綾が、誠に『行け』って言われなきゃ、誠からはなれられないんだったら、オレだってこまるんだよ」


 ドクっと心臓が打ちつける。


「だから、オレが誠を説得してやる。三十分待ってろ」


 ヨウちゃんが切った電話を、あたし、両手でぎゅっとにぎりしめた。





次のページに進む

前のページへ戻る



コミカライズ版もあります!!
【30日まで1巻が30%OFF】


【漫画シーモア】綾ちゃんはナイショの妖精さん


【漫画kindle】綾ちゃんはナイショの妖精さん


【漫画動画1巻1話】



にほんブログ村


児童文学ランキング

スポンサーサイト



Comment 0

What's new?