
パタパタ走って、噴水を一周。
でぶっちょのおじさんのお腹に、ぶつかりそうになったけど、黄緑色のダウンジャケットを着てる男子なんて、どこにもいない。
「そ、そ~だ! 公衆電話っ!」
誠がかけてきたのは、園内の公衆電話のどこかなんだから、そこに行けば、見つけられるはずなんだ!
「な~んだ、かんたん!」
パンフレットをひろげて、園内マップを確認。公衆電話のマークは、園内の三ヶ所。
「ここから一番近いのは……あっ! ジェットコースターの横っ!! 」
ポンチョをひらめかせて、走り出した。
噴水広場の奥。青空に、ぐるんと一回転しているジェットコースターのレール。
そのレールを走るジェットコースターのカート。レールのてっぺんをさかだちして通過したとき、きゃ~って、さけび声があがった。
いいな~。あたしも乗りたいな~。
「あった。公衆電話っ!」
二台の銀色の電話が、トイレの横にならんでた。
つかってる人は、だれもいない。今時みんな、スマホ持ちだもんね。
「誠~?」
公衆電話のまわりをあちこちキョロキョロ。
右はメリーゴーランド、左を見たら、巨大迷路。柵の中のレースコースを、ゴーカートに乗った子どもが、ジグザグ走行してる。
「いない……。来るのが遅すぎたんだ」
でも、一時間おきに電話くれるって言ってた。
ってことは、一時間おきに、誠は、かならず園内どこかの、公衆電話に行く。
「最初から、公衆電話のある場所のそばに隠れてれば、誠を見つけられるってことじゃない!」
公衆電話は三ヶ所にあるから、誠が来る確立は、三分の一。
「よ~し! 次は、西ゾーンの公衆電話で待ちぶせしよ~」
あれ? ちょっと、楽しくなってきた!
あたしは、クリスマスソングの流れる園内をかけていった。
カァカァ、カラスが鳴いている。
空をあおげば、すっかり夕方。オレンジ色の太陽が群青色の海にうつりこむ。
あ~……絶景。
ベイランドの柵の外は、港。
海に並行して、ベンチが等間隔にならんでいて。アンティークな街灯が、ベンチに緑のあかりを落としてる。
カップルたちは、クリスマスの夕日の前で、自撮りしてるし。
なによっ! リア充のバカっ!! 見せびらかしちゃってさっ!
あたしは、ベイランドの柵の内側。檻に入れられたサルみたい。
誠を見つけなきゃ、ベイランドから出られない……。
「誠ぉ、ホントにどこにいるの~っ!? 」
誠はきっちり、一時間おきに、電話をくれる。
だからあたしも、公衆電話にはり込みしたり。アホっ子なりに頭を働かせて、警察官ぽく行動したのに。
電話の声だけをのこして、誠はこの世から消えちゃったみたい。
頭の上の街灯が、チカチカしてからともった。
ふり返ったら、園内がイルミネーションに包まれてた。
メリーゴーランドを彩る赤や黄色。観覧車できらめく青い星のマーク。
まるで、デコレーションケーキの中にいるみたい。
「キレ~」
正面に、四角い建物が見えた。高々とかかげられた絵看板。腕を前にたらしたゾンビに、ドラキュラに、フランケンシュタインの絵。
血がしたたるような字で、「よい子のホラー館」って書かれてる。
あ……ヨウちゃんが、ビビッてヘタレた場所……。
「……ヨウちゃん、どうしてるかな……?」
つぶやいた自分の声で、胸をきゅ~っとしめつけられた。
「夕方だけはあけといて」って言われたのに……。
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