
「誠ぉ~! 降参だから、もう出てきて~」
ヨーロッパ風のアパートが左右にならぶ路地を、あたしはとぼとぼ歩いてく。
このアパート、遊園地の飾りの一部。本当に人なんか住んでないし、石造りに見えてもパテで、上から塗装してある。
「お腹、すいたし、足が痛いよ~」
冷えた空に向かって呼びかけても、口から白い息が抜けてくだけ。
誠、どこ行ったんだろ~?
園の中央にそびえる時計塔の時計はもう、お昼の一時なのに。
あの時計塔、ベイランドのすべての場所から見える、シンボルタワーなんだって。
レンガ造り風のとんがり屋根で、てっぺんには、ローマ数字の取り巻く文字盤。
文字盤のまわりはバルコニーになっていて、展望できるようになってる。だけど、そこに行く方法は、非公開ってウワサ。
「あ、そ~だ。まいごのお呼び出しで、誠を呼び出してもらえばいいんだ! ――って、呼び出したって、出てくるわけないじゃん~。本人が、『さがせ』って言ってるんだもん~」
石畳の路地を抜けたら、噴水があがってた。
丸い石段に腰かけて、カップルがのんきに肩をならべてる。
まわりはパスタ屋さんやピザ屋さん。奥でキャーキャー声がしてるのは、ジェットコースターからの悲鳴。
「お腹すいたし、もう、ひとりでもなんでもいいや。チュロス食べて、少し休も~」
ワゴン販売のチュロス屋さんの列にならんだら、ポシェットで、キッズケータイが鳴った。
あれ?
表示の文字は「公衆電話」。
「……もしもし?」
「あ? 和泉ぃ?」
カラっと明るい、誠の声。
なんか、力が抜けた。
「誠っ!? ちょっと、どこからかけてるの~っ !? もう、こんなの終わりにしてっ! あたし、つかれたから帰っちゃうよ~っ!! 」
「え~? じゃあ、和泉は、この鈴がどうなってもいいの? オレ、今、わる~い海賊なんだぞっ! 和泉がオレを見つけられなかったら、オレ、この鈴、海に捨てちゃうよ」
ひ、ひどい~……。
「……お願い、誠。それは、やめて……」
「和泉ぃ。この鈴、だれかにあげるつもりなんでしょう?」
ケータイからきこえてきた誠の声に、あたしの胸、どっきり鳴った。
誠って、やっぱり、勘がするどい。
「人にあげるつもりだったものを、オレに勝手に捨てられちゃったら、イヤだよね? だったら、がんばってオレのこと、見つけなきゃっ!」
誠……。
誠はいつもお調子者で、教室じゃバカやって笑ってて。みんなにあきれられて。それでもぜんぜん気にしてなくて。
だけど、人の気持ちを、真っ先に考えてくれる人。
人を傷つけるようなことは、ぜったいにしない人。
「……わかったよ。あたし、ちゃんと誠をさがす。そのかわり、せめてどこにいるのか、ヒントちょうだい」
「え~っと。じゃあさ、オレ。これから一時間ごとに、和泉に電話かけてあげるよ。その電話から、オレがどこにいるか推理してみな? ちなみに、和泉、今、チュロス買おうとしてるでしょ? バナナ味がおすすめだよ」
「えっ!? 」
さけんだときには、電話が切れてた。
あわてて、キョロキョロあたりを見まわす。
誠、今、あたしが見える位置にいるってことっ !?
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