
ベイランドの入場門が、両手を広げて、お客さんを招き入れてる。
駐車場やおみやげもの屋さんの横は、遊覧船がうかぶ群青色の海。
あたしは、券売所のとなりの柱にもたれて、ポンチョのフードを、赤ずきんちゃんみたいにかぶって、寒さからたえてる。
ベイランドのCMは、地元のテレビ局で、よく流れてる。
ヨーロッパの街並みをモチーフにした遊園地。
東京や大阪の大きなテーマパークには、遠くおよばないけど。でも、地元民にしてみれば、ここは大事なデートスポット。
「和泉ぃ!」
自転車を押して、誠が歩いてきた。
「えへへ、うれしいな~。和泉がちゃんと来てくれた~」
「誠、まさか家からずっと、自転車で来たの~?」
「だよだよ~。一時間かかっちゃった。和泉はバス?」
「うん。駅から直通バス」
誠って、本当、外ではオシャレ。
黄緑色のダウンジャケット。首まわりには、緑と白で雪の結晶が編み込まれたマフラーをぐるぐる巻き。足には、黒のサルエルパンツ。
「和泉、きょうは特別、かっわい~っ!! 」
「えっ そ……そう……?」
誠って、堂々とほめてくれるんだもん。こっちが、ドキッとしちゃう。
きょうはあたしも、学校では着られない服を着てきたんだ。
頭からかぶるピンクのポンチョは、そでがダルダルだから、動きにくくて、登校着にしたら、先生に怒られちゃう。
中はフツウなんだけどね。白のセーターに、タータンチェックのラップスカート。で、白いタイツに、ぺったんこのショートブーツ。
かぶってたフードをおろしてたら、誠があたしの手の中に気がついた。
「あれ~和泉ぃ? ケータイなんか持ってたっけ~?」
「あ。うん」
ビビットピンクのキッズケータイ。
「朝ね、クリスマスプレゼントにパパからもらったの。ホントはスマホがほしかったんだよ? でも、『お子ちゃまには、まだ早い!』って~」
「いいじゃん。いつでもどこでも電話できて、メールを送れるだけでもすぐれものだよ! いいな~。オレ、ケータイないから、チョーうらやましー。そ~だ。和泉ぃ、番号、教えて」
「うん、いいよ」
寒さで赤くなった指先で、ピッピと慣れない携帯電話操作。
向かい合ったあたしたちの横を、お客さんたちの群れが園内へ流れていく。
高校生や中学生のカップル。ちっちゃい子をつれたお父さんとお母さん。
「はい、これ、電話番号」
メモ用紙にペンで番号を書いて、誠にわたしたら、「ありがと~」ってかわりに、手のひらに、一枚の横長の紙がのっかった。
「ほぇ?」
くれたものをよく見たら、ベイランドのパスポート。
「えっ!? ウソっ! いつの間にっ!? あっ、お金……」
「い~らない! きょうはオレのおごりだよ~」
「で、でもっ! そんなの、悪いよっ!! 」
それにおごりだなんて、ますますデートっぽくなっちゃうじゃんっ!
「待って、誠! あたしね、きょうは、しっかり話がしたいんだ。だから、パスポートで乗り物満喫とかじゃなくてね。ちょっと、お茶しない……?」
自転車をわきにとめて、誠がふり返った。
「和~泉ぃ。じゃ、じゃ、じゃ~ん。オレは今から、海賊になりま~す」
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