《4》 永遠の子どもの国からの脱出1 - ナイショの妖精さん3
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《4》 永遠の子どもの国からの脱出1

  08, 2021 23:26
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 ベイランドの入場門が、両手を広げて、お客さんを招き入れてる。

 駐車場やおみやげもの屋さんの横は、遊覧船がうかぶ群青色の海。

 あたしは、券売所のとなりの柱にもたれて、ポンチョのフードを、赤ずきんちゃんみたいにかぶって、寒さからたえてる。

 ベイランドのCMは、地元のテレビ局で、よく流れてる。

 ヨーロッパの街並みをモチーフにした遊園地。

 東京や大阪の大きなテーマパークには、遠くおよばないけど。でも、地元民にしてみれば、ここは大事なデートスポット。



「和泉ぃ!」


 自転車を押して、誠が歩いてきた。


「えへへ、うれしいな~。和泉がちゃんと来てくれた~」


「誠、まさか家からずっと、自転車で来たの~?」


「だよだよ~。一時間かかっちゃった。和泉はバス?」


「うん。駅から直通バス」


 誠って、本当、外ではオシャレ。

 黄緑色のダウンジャケット。首まわりには、緑と白で雪の結晶が編み込まれたマフラーをぐるぐる巻き。足には、黒のサルエルパンツ。


「和泉、きょうは特別、かっわい~っ!! 」


「えっ  そ……そう……?」


 誠って、堂々とほめてくれるんだもん。こっちが、ドキッとしちゃう。


 きょうはあたしも、学校では着られない服を着てきたんだ。

 頭からかぶるピンクのポンチョは、そでがダルダルだから、動きにくくて、登校着にしたら、先生に怒られちゃう。

 中はフツウなんだけどね。白のセーターに、タータンチェックのラップスカート。で、白いタイツに、ぺったんこのショートブーツ。


 かぶってたフードをおろしてたら、誠があたしの手の中に気がついた。


「あれ~和泉ぃ? ケータイなんか持ってたっけ~?」


「あ。うん」


 ビビットピンクのキッズケータイ。


「朝ね、クリスマスプレゼントにパパからもらったの。ホントはスマホがほしかったんだよ? でも、『お子ちゃまには、まだ早い!』って~」


「いいじゃん。いつでもどこでも電話できて、メールを送れるだけでもすぐれものだよ! いいな~。オレ、ケータイないから、チョーうらやましー。そ~だ。和泉ぃ、番号、教えて」


「うん、いいよ」


 寒さで赤くなった指先で、ピッピと慣れない携帯電話操作。


 向かい合ったあたしたちの横を、お客さんたちの群れが園内へ流れていく。

 高校生や中学生のカップル。ちっちゃい子をつれたお父さんとお母さん。


「はい、これ、電話番号」


 メモ用紙にペンで番号を書いて、誠にわたしたら、「ありがと~」ってかわりに、手のひらに、一枚の横長の紙がのっかった。


「ほぇ?」


 くれたものをよく見たら、ベイランドのパスポート。


「えっ!?  ウソっ! いつの間にっ!?  あっ、お金……」


「い~らない! きょうはオレのおごりだよ~」


「で、でもっ! そんなの、悪いよっ!! 」


 それにおごりだなんて、ますますデートっぽくなっちゃうじゃんっ!


「待って、誠! あたしね、きょうは、しっかり話がしたいんだ。だから、パスポートで乗り物満喫とかじゃなくてね。ちょっと、お茶しない……?」


 自転車をわきにとめて、誠がふり返った。


「和~泉ぃ。じゃ、じゃ、じゃ~ん。オレは今から、海賊になりま~す」




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