《3》 伝えたいこと8 - ナイショの妖精さん3
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《3》 伝えたいこと8

  07, 2021 22:24
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「……あ、あの……ヨウちゃん。ごめんね……」


 高台のヨウちゃんちへのぼっていく坂のとちゅうで、あたし、ヨウちゃんの背中を追いかけた。


「クリスマス……。その……誠と約束しちゃって……」


 先を行く、ヨウちゃんのランドセルが立ちどまる。



「……べつにかまわねぇよ。オレらはまだ、なんも約束してなかったし。こういうのは先着順だろ?」


 淡々と言う細い声。


 本当に怒ってないみたい……。


「あ……ねぇ、ヨウちゃんは、クリスマスに何か予定あったの?」


「ねぇよ。前、倉橋たちにクリスマスパーティーさそわれたけど、ことわった」


「え……?」


 ど、どうしよう……。

 ヨウちゃんはしっかりことわったのに。あたしときたら……。


「あ、あの……リンちゃんたちとのパーティー、やっぱり行けば?」


 ぼんやりつぶやいちゃったら、ヨウちゃんが、じろっとふり返った。


 わ……目、硬い。


「……おまえは、それでいいのか?」


「……い、イヤだけどっ! でも……あたしばっかりじゃ。その……悪いし……。ヨウちゃんだって、せっかくのクリスマスなのに、ヒマでしょ?」


「いいんだよ。オレはオレがことわりたいから、ことわったんだ。おまえは人のことまで気にしてないで、誠と行って来い」


 へんなの……。

 ヨウちゃんって、こんなに、ものわかりのいい人だったっけ?
「……きのうは、ヤキモチ妬きまくりだったのに……」


 つぶやいちゃったら、ピキッと、ヨウちゃんのこめかみが引きつった。


「……おまえな。オレだって、だいぶガマンしてるんだぞ。けど、あんなことがあったばっかりなのに、誠とちょっとどっかに行ったぐらいで、綾がどうにかなったりするんだったら、きのうのおまえは、なんだったんだってことになるじゃねぇか。

心はかんたんには、かわらない。……オレは……綾を信じたい」


 ……ヨウちゃん……。


 あたしは、片肩にだけかかってるヨウちゃんのランドセルを、後ろからぐいと引いた。


「うわっ!? 」


 そり返るヨウちゃんの背中。こっちに、もたれかかってきた平たい背中に、両腕をまわして、ぎゅっと抱きつく。


「……えっ!?  あ、綾っ!? 」


 ヨウちゃん、電信柱になったみたいに、かたまった。


「ありがとう、ヨウちゃん……。あたしね、誠とちゃんと話がしたいの。誠、たぶん、逃げてる。あたしとヨウちゃんのこと、もうわかってるのに、わからないふりして、自分が痛いのから逃げてる。

だけど、誠はいい人だから。あたし、ちゃんと向き合いたいんだ。誠が、クリスマスに会いたがってるなら、クリスマスに会ってあげたいの」



「……綾」


 ヨウちゃんのため息が、白くなって、うす水色の空にあがっていった。


「クリスマスの日さ……。やっぱ、夕方だけはあけといて」


 大きな平たい背中から、低い声が、あたしの耳に直接ひびいてくる。


「誠と会ったあとでいいから……」


「……うん」


 あたしの胸を熱くする声。



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