
「……あ、あの……ヨウちゃん。ごめんね……」
高台のヨウちゃんちへのぼっていく坂のとちゅうで、あたし、ヨウちゃんの背中を追いかけた。
「クリスマス……。その……誠と約束しちゃって……」
先を行く、ヨウちゃんのランドセルが立ちどまる。
「……べつにかまわねぇよ。オレらはまだ、なんも約束してなかったし。こういうのは先着順だろ?」
淡々と言う細い声。
本当に怒ってないみたい……。
「あ……ねぇ、ヨウちゃんは、クリスマスに何か予定あったの?」
「ねぇよ。前、倉橋たちにクリスマスパーティーさそわれたけど、ことわった」
「え……?」
ど、どうしよう……。
ヨウちゃんはしっかりことわったのに。あたしときたら……。
「あ、あの……リンちゃんたちとのパーティー、やっぱり行けば?」
ぼんやりつぶやいちゃったら、ヨウちゃんが、じろっとふり返った。
わ……目、硬い。
「……おまえは、それでいいのか?」
「……い、イヤだけどっ! でも……あたしばっかりじゃ。その……悪いし……。ヨウちゃんだって、せっかくのクリスマスなのに、ヒマでしょ?」
「いいんだよ。オレはオレがことわりたいから、ことわったんだ。おまえは人のことまで気にしてないで、誠と行って来い」
へんなの……。
ヨウちゃんって、こんなに、ものわかりのいい人だったっけ?
「……きのうは、ヤキモチ妬きまくりだったのに……」
つぶやいちゃったら、ピキッと、ヨウちゃんのこめかみが引きつった。
「……おまえな。オレだって、だいぶガマンしてるんだぞ。けど、あんなことがあったばっかりなのに、誠とちょっとどっかに行ったぐらいで、綾がどうにかなったりするんだったら、きのうのおまえは、なんだったんだってことになるじゃねぇか。
心はかんたんには、かわらない。……オレは……綾を信じたい」
……ヨウちゃん……。
あたしは、片肩にだけかかってるヨウちゃんのランドセルを、後ろからぐいと引いた。
「うわっ!? 」
そり返るヨウちゃんの背中。こっちに、もたれかかってきた平たい背中に、両腕をまわして、ぎゅっと抱きつく。
「……えっ!? あ、綾っ!? 」
ヨウちゃん、電信柱になったみたいに、かたまった。
「ありがとう、ヨウちゃん……。あたしね、誠とちゃんと話がしたいの。誠、たぶん、逃げてる。あたしとヨウちゃんのこと、もうわかってるのに、わからないふりして、自分が痛いのから逃げてる。
だけど、誠はいい人だから。あたし、ちゃんと向き合いたいんだ。誠が、クリスマスに会いたがってるなら、クリスマスに会ってあげたいの」
「……綾」
ヨウちゃんのため息が、白くなって、うす水色の空にあがっていった。
「クリスマスの日さ……。やっぱ、夕方だけはあけといて」
大きな平たい背中から、低い声が、あたしの耳に直接ひびいてくる。
「誠と会ったあとでいいから……」
「……うん」
あたしの胸を熱くする声。
次のページに進む
前のページへ戻る
コミカライズ版もあります!!

【漫画シーモア】綾ちゃんはナイショの妖精さん

【漫画kindle】綾ちゃんはナイショの妖精さん

にほんブログ村

児童文学ランキング
スポンサーサイト