
まぶしい朝の光が、六年生の教室に差し込んでくる。
その入り口のドアに背中でもたれて、ヨウちゃんが有香ちゃんに、ピンク色の封筒をさしだしてる。
あ、今、メガネの中で、有香ちゃんの目、かがやいた。
両手で封筒をにぎりしめて、こみあげてくるうれしさをかみしめてる。
登校してきたクラスメイトたちは、そっちに目をやって、ザワザワ。
「え? どういうこと?」
「葉児が永井にラブレター? なんで? ……和泉は?」
男子たちが、チラチラ、あたしの顔をうかがってくる。
って。ようするに。
だれがだれを好きかって、すでにクラス中、バレバレだってこと……?
だったら、きのうより前に、だれか、あたしに教えてよ~。
自分の席でほっぺたを抱えてふてくされてたら、ヨウちゃんと話し終わった有香ちゃんが、あたしに向かって、手をふった。
「綾ちゃ~んっ! おはよ~っ!! 」
その声で、ヨウちゃんもこっちに顔をあげる。
目が合うと、ヨウちゃんはほおを赤くして、視線を足元におろした。
は、はずかし~。
あたしのほっぺたも、熱くなっちゃう。
きのう、浅山であったこと、あたしのつごうのいい夢じゃなかったんだ……。
「綾ちゃん、これ見て~っ!」
有香ちゃん、ヨウちゃんからもらったばっかりの封筒をひらひらさせて、あたしの席にとんでくる。
それを見て、また、クラスメイトたちはひそひそ。
そりゃ、そうだよね。今の有香ちゃん、まるで、自分がもらったラブレターを、ライバルに見せびらかしに行く人みたいだもん。
でも、それはないな。
もし本当にヨウちゃんから告白なんてされたら、有香ちゃんはあたしを気にして、きっと落ち込んじゃう。
「綾ちゃん、やったよ~っ! わたしの服が売れたんだって~っ!! それでね、これね。その服を買ってくれた子からのファンレターっ!」
封筒には、ミミズがはったみたいな色えんぴつで、「ありかおねえちゃんへ」って書いてあった。
「あれ? 有香ちゃん、小物だけじゃなくって、子ども服も置いてたんだ?」
「うふふ。一着だけね。ほら、服って、好みがむずかしいし。小さい子の服だと、サイズが合わないと買ってもらえないでしょ? だから、わたしが『どうしても』ってたのみこんで、一着だけ置いてもらってたの。そしたら、きのう、お店に来た子どもづれのお客さんが、買ってくれたんだって」
「すごいじゃん、有香ちゃん! やっぱり、有香ちゃんの服のよさは、わかる子にはわかるんだよっ!」
手を取り合って、ふたりではしゃいでとびはねてたら、女子たちがあつまってきた。
「すご~い、永井さんっ!」
「服、売れたんだ~、おめでとう~!!」
明るい女子たちの会話に、男子たちついていけなくて、目をしぱしぱ。
「あれぇ? なんだか、女子たちがみんなして、あつまってる~」
誠の声がきこえたと思ったら、誠の後ろから、真央ちゃんも教室に入ってきた。
「あ、真央~っ! きいて~っ!! 」
有香ちゃん、やっぱり、ハイテンション。
ズラッと、せいぞろいした女子たちの真ん中で、有香ちゃんは手紙を開いた。
『ありかおねえちゃんへ。ふくをつくってくれて、ありがとう。とってもかわいくて、ようせいさんみたいです。ピアノのはっぴょうかいが、たのしみです』
「く~……字がカワイイ~」
有香ちゃんが、手紙を抱きしめる。
「この子、ピアノの発表会で、有香がつくった服を着るのか~」
「ねぇ、どんな服なの~?」
封筒の中から、写真がピロンと一枚落ちてきた。
手紙の子のお母さんが、わざわざ撮って、入れてくれたのかな? 一年生くらいの女の子が写ってる。
濃いピンク色のチューリップをさかさまにしたみたいなワンピース。細い女の子の体にぴったりあっていて、チューリップのお花の精みたい。
「カワイイ~っ!! 」
女子全員、目がハート。

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