《1》記憶の実、ころり 12 - ナイショの妖精さん1
fc2ブログ

《1》記憶の実、ころり 12

  28, 2018 20:19
2018091201



「ちょ、ちょっと、待ってよっ! あの子、中条に『助けて』って言ってるんだよっ!? 」


 引っぱられて、あたしまで走らされる。


「知るか、あんな人間外っ!」


 砲弾倉庫のわきを通って。登山道へ足を踏み入れたときには、妖精の姿は消えていた。

 それでも中条、走るのをやめない。


「ねぇ、とまってよ! 手ぇ痛い 」

「立ちどまって、あのバケモンに追いつかれでもしたらどうすんだよ! クソ! まだ、サブイボ立ってる。こんな恐ろしい思いすんの、『よい子のホラー館』以来だっ!」

「え? えっと……それって、ベイランドの中にあるオバケ屋敷のこと?」

「ほかにあるかっ!? 」


 だって……。


 ベイランドってのは、地元のちっさい遊園地。オバケ屋敷は怖くなさすぎて、幼稚園児でも笑って出てくるって有名なんだけど。


 中条って、もしかして……。

 ううん。もしかしなくても。



 すんごいヘタレ……?



 土の細い登山道が、アスファルトの道路にぶつかった。

 道路を数メートルくだったところにある駐車場から、小学生たちの声がきこえてくる。


「あ! 中条く~ん!」


 リンちゃんが駐車場の入り口で、両手を大きくふっている。

 とたんに、汗ばんだ手のひらが、パッと、あたしの手首からはなれた。

 手錠をはずされた気分。ホッとして、相手を見あげたら、ジーンズの後ろポケットに両手をつっこんで、目を細めてた。


 ……あれ?


「遅くなって悪い。三班、全員そろった」


 いつもと同じ、石膏みたいな無表情。
 中条はコンパスの長い足で、スタスタとクラスメイトたちの中に入っていく。


 な、な、な、なんなの、この人っ !?




次のページに進む

前のページへ戻る



にほんブログ村


児童文学ランキング
スポンサーサイト



Comment 0

What's new?