
「ちょ、ちょっと、待ってよっ! あの子、中条に『助けて』って言ってるんだよっ!? 」
引っぱられて、あたしまで走らされる。
「知るか、あんな人間外っ!」
砲弾倉庫のわきを通って。登山道へ足を踏み入れたときには、妖精の姿は消えていた。
それでも中条、走るのをやめない。
「ねぇ、とまってよ! 手ぇ痛い 」
「立ちどまって、あのバケモンに追いつかれでもしたらどうすんだよ! クソ! まだ、サブイボ立ってる。こんな恐ろしい思いすんの、『よい子のホラー館』以来だっ!」
「え? えっと……それって、ベイランドの中にあるオバケ屋敷のこと?」
「ほかにあるかっ!? 」
だって……。
ベイランドってのは、地元のちっさい遊園地。オバケ屋敷は怖くなさすぎて、幼稚園児でも笑って出てくるって有名なんだけど。
中条って、もしかして……。
ううん。もしかしなくても。
すんごいヘタレ……?
土の細い登山道が、アスファルトの道路にぶつかった。
道路を数メートルくだったところにある駐車場から、小学生たちの声がきこえてくる。
「あ! 中条く~ん!」
リンちゃんが駐車場の入り口で、両手を大きくふっている。
とたんに、汗ばんだ手のひらが、パッと、あたしの手首からはなれた。
手錠をはずされた気分。ホッとして、相手を見あげたら、ジーンズの後ろポケットに両手をつっこんで、目を細めてた。
……あれ?
「遅くなって悪い。三班、全員そろった」
いつもと同じ、石膏みたいな無表情。
中条はコンパスの長い足で、スタスタとクラスメイトたちの中に入っていく。
な、な、な、なんなの、この人っ !?
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