
「――綾……。この手、どうした……?」
「……え?」
ぼんやり閉じてたまぶたを開けたら、ヨウちゃんが見おろしていたのは、あたしの左手。
……あ、あれ……?
セーターのそでぐちに半分隠れた手首に、黒い腕輪みたいに、墨を流したようなあとがある。
「へんなの。あたし、こんなとこ、いつの間によごしたんだろ?」
きょう一日、墨なんて、つかった記憶ないんだけど。
自分の右手で、左手首をごしごしこすってみたけど、ぜんぜんとれない。
ヨウちゃんののどぼとけが、ゆっくり上下した。
「綾……覚えてるか? こないだ浅山で妖精を呼び出したときに、妖精にもこういうアザがついてたこと……」
「あ、そういえば……。赤いくるくる髪の小さな男の子でしょ? えっと……たしか、ふくらはぎに……」
「オレが見たのは、おまえがチチって呼んでる妖精だよ。二の腕のあたりに、こんな黒いアザがついてた……」
「……ウソ……」
気づかなかった。
ってことは、アザがある妖精は、ひとりだけじゃなかったんだ……。
「……似てるな。黒いタマゴのときの邪視のモヤに。モヤが、手首にはりついたみたいだ……」
「ヤダ……。不吉なこと言わないでよ~」
だって、二ヶ月前。ヨウちゃん、さんざん邪視に苦しめられたんだよ?
邪視を出してた妖精の黒いタマゴは、もう壊しちゃった。だから、怖いことはなくなったはずなんだけど。
ヨウちゃん、ほっぺたを青白くして、あたしの手首を見つめてる。
それから、気づいたように、自分のほおを、腕でぐいっとぬぐった。
「綾。今から浅山に行くぞ! このアザ、妖精となにか関係あるかもしれない!」
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