《2》 ネバーランドへようこそ20 - ナイショの妖精さん3
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《2》 ネバーランドへようこそ20

  08, 2021 18:33
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 ヨウちゃん、ぐっと、奥歯をかみしめる。


 あ……そうなんだ……。


「でもさ、ヨウちゃん。誠のは、おでこだよ? それに、お芝居の中での話でしょ。誠だって反省してるんだし。もういいじゃん」


「だからなんで、おまえはいつも、誠には甘いんだよっ!!  ……オレなんて……ふれてもねぇのに……」


 ウソ……。ヨウちゃんのあご、震えてる。


「お、おまえっ! 前にオレのこと好きって、言ったじゃねぇかっ!! 」


 頭の中、真っ白になった。


 ……ヨウちゃん、ホントにどうしちゃったの?


 だって。あたしをにらみつける目から、ぼろぼろ涙がこぼれてくる。


 こんなヨウちゃん、あたし知らない……。

 こんな、小さな駄々っ子みたいな……。


「も、もう。い~よ。おまえなんか、知らねぇよ。誠がい~んだろ? さっさと誠んとこ行けよ……」


 じゃ、じゃあなんで、しゃくりあげてるの?

 男子って、泣くとこ人に見られるの、イヤなんじゃないの?


 自分の胸をかきむしって、「っ……」「く……」って、声をつまらせて。


 痛そう……。


「……ヨウちゃん。あたしが誠にキスされたこと、そんなにショックだったの……?」


 つぶやいた自分の声が、自分の胸にはね返ってきた。


 ……あれ……?


 もしかして、ヨウちゃん……あたしのこと……そうとう好き……?



「……ショックに……決まってんだろ……」


 琥珀色の目が、震えながらあたしを見つめる。


「オレが……ビビッて、ヘタレて……なんもできないでいるうちに……。あいつは、どんどん、綾を手に入れてる……」


「誠が? あたしのこと、手に入れてなんか、ないよ。なんで?」


「だって、あいつは……ちゃんと綾を笑わせられるじゃねぇかっ! 綾と芝居でカップルになって。手ぇつないで、仲良く空飛んで。オ、オレは……。オレなんか……。キツイことばっか言って、つきはなすようなことしかできなくて……。な、なのに……芝居でさえ、敵役で……」


「……ヨウちゃん……」


 あたしは、そっと、ヨウちゃんの胸に自分のほっぺたをくっつけた。体重をあずけて、平たい大きな胸にもたれてみる。


 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。


 ヨウちゃんの心臓の音、痛い。


「ヨウちゃん……ちがうよ……。きょう、劇でセリフを言えたのは、ヨウちゃんがきのう、しっかりきつく、スパルタ教師してくれたからだよ……。あたし、わかってる。ヨウちゃんが、いつも、あたしを助けてくれること。

だいじょうぶ、あたしは、どこにも行かない。あたしの心は……永遠にあなただけのもの……」


「……綾……」


 ヨウちゃんが「ひっ」としゃくりあげた。


「……おまえ、アホだろ? なに、言っちゃってんだよ……」


「いいんだもん……。どうせ、アホっ子だもん……」


 だって、痛いのはつらいから……。


 胸に置いた手のひらから伝わってくる、ヨウちゃんの心臓の音。この音が、少しでもやわらぐように……。


「……綾」


 ヨウちゃんが、ふっと、あたしの左手首を持ちあげた。


 ドキッとして、顔をあげる。


 涙でうるんだ琥珀色の瞳。


 あたしのくちびるに、ヨウちゃんのくちびるが近づいてくる。


 ふわっと、ほおに吐息がかかった。


 あ……あと五センチ。




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