《2》 ネバーランドへようこそ19 - ナイショの妖精さん3
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《2》 ネバーランドへようこそ19

  05, 2021 20:57
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「は~。怖かったぁ~。お芝居中に、あの世に行くハメになるかと思ったぁ~」


 六年の教室で、誠がぺたんと黒板の下に、腰をおろしてる。


「和泉ぃ、ありがとなぁ。葉児をとめてくれて~。おかげでオレ、命拾いしたよ~」


「あはは。誠ってば、おおげさ。主役、おつかれさま」


 誠はピーターパンの衣装をぬいじゃって、いつものよれたトレーナー姿にもどってる。

 あたしも、真央ちゃんも、青森さんも。役を持ってた子たちも全員、普段着。コスプレパーティーはおわっちゃった。

 きょうは、午前中のクリスマス会だけで、給食を食べてすぐに下校のハッピーデー。

 だから、帰りのホームルームがはじまるまで、先生を待っているところなんだけど。


「あ~。戦う中条君、カッコよかった~」

「動画におさめときたかったね~」

「誠なんか負かしちゃえばよかったのに。和泉さんがジャマするからっ!」


 リンちゃんたち、言いたい放題。


 でも。肝心のヨウちゃんはと言えば。

 自分の席にも座らないで、後ろのロッカーの前で体育座りして、うつむいてる。

 なんていうか、ヌケガラ。背中から、負のオーラがただよってるんだけど。

「カッコイイ」って言ってる女子たちでさえ、今は怖すぎて、近寄れないみたい。


 ヨウちゃんのところに行こうか、どうしようか、まよってたら、誠に「和泉ぃ」って、呼ばれた。


「さっきは、本当にごめんな。オレ……劇に夢中になりすぎて、調子にのった……」


 それって、デコチューのこと……。


「う、ううん。ううん。へいきだよ。だって、お芝居の中での話でしょ? あたしのことは気にしないで」


「あはは」って、笑ったら、誠の目元もへにゃり。


「和泉ぃ。ダメだよ、そういうのは。もっとちゃんと、オレをしからなきゃ。オレ、勝手にいいように取っちゃうよ?」

「……え?『いいように』って?」


 首をかしげたら、槍みたいな視線がつきささってきた。

 後ろのロッカーから、ヨウちゃんが教室を横断して、あたしたちをにらんでる。

 目の中で炎がメラッメラ。


 こ、怖~っ!





 ヨウちゃんがものすご~く、怒ってる件について。

 あたしなりに、理由を考えてみたんだけど。



「……やっぱり、みんなの前で、戦いを中断させちゃったのが、気に食わなかったの?」


 学校帰りに書斎に寄って。おそるおそるたずねたら、「んなわけ、ねぇだろっ!」って、怒鳴られた。


「そこは、とめてくれて、むしろ感謝してるよっ! それより、綾。おまえ、なんなの? どうして、カレシでもない人んち、毎日来てるわけ?」


 うわ、ズキっ!


「……なによ。ヨウちゃんが言ったんじゃん!『話があるから、家に来て』って……」


 お父さんのつくえの前で、ピクンと、ヨウちゃんの肩がゆれる。


 でも、来たことは、しっぱいだったね。

 今のヨウちゃん、怒りまくりすぎていて、とてもじゃないけど、冷静に話なんてしてくれそうにない。


「……わかった……。もう帰るね……」


 ランドセルを引きずって、とぼとぼ書斎のドアに歩きかけたら、ヨウちゃんが後ろからつかつか歩いてきて、まわり込んだかと思うと、バンッと、ドアの前に立ちふさがった。


「……え?」


 なにこれ?「帰るな?」ってこと?


「……オレんときは、嫌がったくせに」


 ヨウちゃん、ドアに背中でもたれて、うつむいてる。


「……え? なにが……?」


「『なにが』じゃねぇよっ!! おまえ、フリでも嫌がったじゃねぇかっ!」


 ……フリって……。


「もしかして……キスのこと……?」



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