
キスのフリがなくなったんだから、せめて告白のシーンは、ウエンディらしい演技して、壇上をわかせなきゃ。
ちょっとしゃがんで、下から誠をのぞきこむ。両手をにぎりあわせて、うるうるの目。
「ピーターパン。おとなになるわたしを許して。……でも、わたしの心は永遠に、あなただけのもの……」
「……ウエンディ……」
あ。誠も名演技。目のふちを赤く染めて。にぎりあわせたあたしの手を、自分の両手で包み込む。
「ありがとう、ウエンディ。オレの心も永遠にキミだけのもの」
……あれ? そんなセリフ、あったっけ……?
クリクリのカワイイ目が、あたしの顔に近づいてくる。
鼻と鼻がぶつかりそうになって、誠はふっとまぶたを閉じた。
おでこに、ひやり、やわらかいものがふれる。
ひゃっ!?
あたしのおでこから、誠はそっと、くちびるをはなした。
――え?
カラン……。
横で音がした。
誠に手を取られたまんまで左を見たら、ヨウちゃんがステージにつっ立ってた。
手に持っていたはずのオモチャの長剣が、ゆかに転がってる。
両手をぶらんとたらして。全身から、力がぬけ落ちてる。
……ヨウちゃん……?
見る間に、琥珀色の瞳のふちに、涙がたまってきた。

「わああっ!! 」
観客席から歓声があがった。
「すご~いっ!! ピーターパンがウエンディにキスした~っ!! 」
「デコチューだ、デコチューっ!」
「ピーターパン、やるぅ~っ!!」
「ま、誠っ!? 」
目の前の誠を見たら、ほっぺた腫れたみたいに真っ赤っ赤。
「……ごめん。和泉……」
その鼻先に、スッと剣の先があらわれた。
「う、うわっ!? 」
手をはなして、ふたり同時にとびのく。
「ピーターパン。オレと勝負しろっ!」
オモチャの長剣を誠につきつけてくるのは、ヨウちゃん。
あ。たしかに、台本どおり。これから、フックとピーターパンの決闘シーン。
最後はフックが負けて、ワニに食べられて終わるんだよね。
だけど……なにこれっ!?
「わっ!? ちょ、ちょっとぉっ!」
短剣を盾にしながら、誠がさけんでる。
「い、イッタぁ。ち、力っ! 強っ!! 」
剣と剣がぶつかるたびに、ガンガン、スゴイ音が鳴る。
プラスチックのオモチャの剣だから、切れないんだけど。これ、体に当たったら、打撲ですまないレベルなんじゃ。
誠は、どんどん押されて、舞台の後ろにせまっていってるのに。ヨウちゃん、剣をふるのをやめない。
「すっげ~」って観客席。
「フック船長、カッコイーっ!! 」
「いけ~、フック船長っ!! 」
「な、なぁ……」
ジョン役の森本が、後ろからあたしにささやいた。
「……葉児、本気出してないか?」
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