
だって。なんだか、すごくつかれちゃった……。
有香ちゃんのことが、かんちがいだってわかって。ホッとしたとたんに、ヨウちゃんてば、「話がある」とか言い出すんだもん。
なに言われるんだろって、あたし、また、もんもん……。
「恋なんかしないほうが……ずっと気楽に、楽しく笑って暮らせるのかもしれないね……」
ちょっと前のあたしが、そうだった。
まわりが恋しておとなになっていく姿に、とりのこされたような、あせりがあって。
だけど、「いつかは、妖精の世界に行くんだ!」って。胸にファンタジーを抱きしめてた。
いつの間に、かわっちゃったんだろう……。
ファンタジーはまだ、しっかりと胸の中にあるのに。
あたしも、知らない間に、おとなの道を歩き出してた……。
「おまえら、アホなこと言ってんじゃねーよっ!! 」
後ろから、低い声がきこえてきて、ハッとなった。
ふり返る前に、大きな手のひらがのびてきて、ぐいと左腕をつかまれる。
……ヨウちゃんっ!?
「ピーターパンめ。ウエンディはさらっていくぞっ!」
あたしをつれて、ヨウちゃんは、ぐいぐい誠からはなれてく。
「えっ!? ウソっ! ちょっとっ!? 」
フック船長って、このとき、こんなふうに割り込んでくるんだったっけっ?
「葉児……じゃなくて、待て! フック船長っ!! 」
観客席の子どもたちは、息を殺して、あたしたちを見あげてるんだけど。
背景の裏や舞台そでは、ざわざわ。
だって、ピーターパンもウエンディもフックまで。なんか勝手に、やりはじめてるんだもん。
舞台そでまで、あたしを引っぱり込むと、ヨウちゃんは、サッとあたしの腕をはなした。
「はい、次。海賊船のシーンっ!」
自分で脚本を乱したくせに、エラそうに上から目線。
それでも、その声で、みんなはペースをもどしたみたい。バタバタ、シーンの準備に動きだす。
いったん幕がおろされて。
次に幕があがると、そこは海賊船の甲板。
あたしや、ジョンやマイケルや、島の子どもたちは、フック船長につかまってる。
で。海賊船からつきだした板の上をわたって、海に落とされるっていう「板わたりの刑」をやらされるシーン。
ふらふら板をわたっていたら、誠のピーターパンが、船のマストの上から参上!
「ウエンディ! 助けに来たよっ!! 」
最初はここ、お姫さま抱っこで助けられるシーンだったんだけど。それはナシになったから。
誠は、オモチャの短剣をつきだして、ふつうに、あたしと、ヨウちゃんの間に立ちはだかった。
ここから……ウエンディの告白シーン。
あたし、ごっくん、つばを飲み込んだ。
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