
「そ、そんなことないよっ!」
あたし、さけんでた。
「有香ちゃんはあたしに、こんなにステキな服、つくってくれたじゃないっ! あたしね、こういうお姫さまみたいなかっこう、あこがれてたんだっ! あたしの夢を、有香ちゃんは叶えてくれたんだよっ!! 」
「……綾ちゃん……」
「そうだよ、有香。有香のウエンディの服の案は、どれもなかなかのもんだったぞ。中条んとこの店で売ってもらってる、ふつうの小物がどうかは知らないけどさ。有香が将来やりたいのって、綾が着てるような、こういう子ども服をつくる仕事なんだろ?」
真央ちゃんの声に、女子たちも「そうだよ」「そうだよ」って言い出した。
「永井さんは、和泉さんの服だけじゃなくて、中条君の服も、誠の服も、青森さんのティンカーベルの衣装も、ほとんどひとりでつくっちゃったでしょ」
「永井さんがいなかったら、あんな完成度の高い服、わたしたちのだれもつくれなかったよ!」
「スラスラ型紙を描いて、それどおりに、ちゃっちゃとミシンかけていくんだもん。わたしたち、『すごいね~』って話してたんだっ!」
「……みんな、ありがとう……」
黒縁メガネをはずして、有香ちゃんは、ハンカチで目頭を押さえた。
不思議。
うちのクラスの女子たちって、そんなに、まとまりがあるほうじゃないのに。
今は、有香ちゃんをかこんで、あったかい。
「まぁ、がんばれば? 将来、永井さんが、有名な子ども服のデザイナーになったら、わたしと中条君の子どもに着せてあげるから」
リンちゃんがさらっと、ツインテールをかきあげたから、ムっカ~。
リンちゃんとヨウちゃんの子どもなんて、想像したくもないってばっ!
あたしのふくれっ面に、メガネをつけ直して、有香ちゃん、くすくす。
「よ~し。じゃ、着がえを終わらせて。有香の衣装を、男子たちに見せびらかしに教室もどるかっ!」
真央ちゃんが、こぶしを天井につきあげた。
インディアンのかっこうをした子に、人魚のかっこうをした子。
着ぐるみのウサギに、クマ。
ティンカーベルの青森さんに、ワニの着ぐるみの真央ちゃん。
家庭科室から出て、廊下をわいわい歩く姿は、ハロウィンの行列みたい。
ガラッと、教室のドアを開けたら、真っ先にヨウちゃんと目が合った。
あ……。ドキっ……。
ひざまで隠れる黒いロングコートのえりをたてて。つばの大きな黒い海賊帽子をかぶってる。足には、黒のロングブーツ。左手にはカギヅメの手袋をちゃんとつけてて。
……う。カッコイイ……。
有香ちゃんって、ホント、衣装つくるのうますぎだよ……。
ほっぺたが熱くなって下を向いたら、あたしを見おろして、ヨウちゃんののどぼとけが、ごっくりさがった。
と、思ったら、その視線はすぐに、あたしの後ろ。
「倉橋。脚本のことで話がある」
で。
それからヨウちゃん、リンちゃんにむずかしい説明をしはじめた。つまり、例のキスシーンが、いかにいらないかっていう理由について。
「ピーターパンは子どもでいたいのに、ウエンディとキスするのは、ありえない」とか。「キャラクターの心情をもっとよく考えろ」とか。
でも、リンちゃん。ヨウちゃんのコスプレに見とれてて、言われてる内容は、ぜんぶ耳からつつ抜けてる気がする。
「え~。でもさ~。こないだやってた、映画のピーターパンでも、ふたりのキスシーン、あったぞ~」
ヨウちゃんの後ろから、誠がひょっこり顔を出した。

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