《2》 ネバーランドへようこそ12 - ナイショの妖精さん3
fc2ブログ

《2》 ネバーランドへようこそ12

  19, 2021 22:22
2021032616.jpg


「そ、そんなことないよっ!」


 あたし、さけんでた。


「有香ちゃんはあたしに、こんなにステキな服、つくってくれたじゃないっ! あたしね、こういうお姫さまみたいなかっこう、あこがれてたんだっ! あたしの夢を、有香ちゃんは叶えてくれたんだよっ!! 」


「……綾ちゃん……」


「そうだよ、有香。有香のウエンディの服の案は、どれもなかなかのもんだったぞ。中条んとこの店で売ってもらってる、ふつうの小物がどうかは知らないけどさ。有香が将来やりたいのって、綾が着てるような、こういう子ども服をつくる仕事なんだろ?」


 真央ちゃんの声に、女子たちも「そうだよ」「そうだよ」って言い出した。


「永井さんは、和泉さんの服だけじゃなくて、中条君の服も、誠の服も、青森さんのティンカーベルの衣装も、ほとんどひとりでつくっちゃったでしょ」

「永井さんがいなかったら、あんな完成度の高い服、わたしたちのだれもつくれなかったよ!」

「スラスラ型紙を描いて、それどおりに、ちゃっちゃとミシンかけていくんだもん。わたしたち、『すごいね~』って話してたんだっ!」


「……みんな、ありがとう……」


 黒縁メガネをはずして、有香ちゃんは、ハンカチで目頭を押さえた。


 不思議。


 うちのクラスの女子たちって、そんなに、まとまりがあるほうじゃないのに。

 今は、有香ちゃんをかこんで、あったかい。


「まぁ、がんばれば? 将来、永井さんが、有名な子ども服のデザイナーになったら、わたしと中条君の子どもに着せてあげるから」


 リンちゃんがさらっと、ツインテールをかきあげたから、ムっカ~。


 リンちゃんとヨウちゃんの子どもなんて、想像したくもないってばっ!


 あたしのふくれっ面に、メガネをつけ直して、有香ちゃん、くすくす。


「よ~し。じゃ、着がえを終わらせて。有香の衣装を、男子たちに見せびらかしに教室もどるかっ!」


 真央ちゃんが、こぶしを天井につきあげた。




 インディアンのかっこうをした子に、人魚のかっこうをした子。

 着ぐるみのウサギに、クマ。

 ティンカーベルの青森さんに、ワニの着ぐるみの真央ちゃん。

 家庭科室から出て、廊下をわいわい歩く姿は、ハロウィンの行列みたい。



 ガラッと、教室のドアを開けたら、真っ先にヨウちゃんと目が合った。


 あ……。ドキっ……。


 ひざまで隠れる黒いロングコートのえりをたてて。つばの大きな黒い海賊帽子をかぶってる。足には、黒のロングブーツ。左手にはカギヅメの手袋をちゃんとつけてて。


 ……う。カッコイイ……。


 有香ちゃんって、ホント、衣装つくるのうますぎだよ……。


 ほっぺたが熱くなって下を向いたら、あたしを見おろして、ヨウちゃんののどぼとけが、ごっくりさがった。

 と、思ったら、その視線はすぐに、あたしの後ろ。


「倉橋。脚本のことで話がある」


 で。


 それからヨウちゃん、リンちゃんにむずかしい説明をしはじめた。つまり、例のキスシーンが、いかにいらないかっていう理由について。

「ピーターパンは子どもでいたいのに、ウエンディとキスするのは、ありえない」とか。「キャラクターの心情をもっとよく考えろ」とか。

 でも、リンちゃん。ヨウちゃんのコスプレに見とれてて、言われてる内容は、ぜんぶ耳からつつ抜けてる気がする。


「え~。でもさ~。こないだやってた、映画のピーターパンでも、ふたりのキスシーン、あったぞ~」


 ヨウちゃんの後ろから、誠がひょっこり顔を出した。


2021032606.jpg





次のページに進む

前のページへ戻る




にほんブログ村


児童文学ランキング
スポンサーサイト



Comment 0

What's new?