
「……告白なんて……されるわけないじゃない~……」
有香ちゃんが、長~く息をはきだした。
「でも……だって……何週間か前に、有香ちゃんがヨウちゃんちにいたのは……?」
「あれは、お店にどんな品物を置こうかっていう、打ち合わせ」
「しょっちゅう、ヨウちゃんちに通ってるのは?」
「お店に出す品物を運ぶため」
「ヨウちゃんちで、ヨウちゃんのこと『葉児君』って、呼んでたのは?」
「あのね。ふつう、親の前で、息子のこと、苗字呼び捨てで呼べる?」
う……。たしかに……。
「……綾ちゃん……。ゆっくり話すから、ききもらさないで、ちゃんときいてくれる?」
有香ちゃんは、あたしの両手をにぎる手に、力を込めた。
「これはね、たまたまのお話なの。わたしの親がね、お客さんとして、中条の家のカフェに行ったんだって。そしたら、中条のお母さんと意気投合しちゃってね。うちのお母さんが勝手に、中条のお母さんに、あたしの趣味が裁縫だって、話したんだって。
それなら、ちょっと、中条んちの店で、あたしの作品を売ってみないかって、話になったらしくて。わたしも、お母さんから、とつぜんそんな話をきかされたから、『どうしようかな』って、まよったんだけど。
でも、ほら、わたし最近、子ども服のデザイナーになりたいなって、思ってるでしょ? だから、もしかしたらこれは、自分の実力をためすチャンスなんじゃないかなって。中条の店に、作品を置いてもらうことにしたの」
「じゃあ、カフェにあった、あのおみやげコーナーの品物は……」
「みんな、わたしの作品」
「って。ええっ!? それ、すごくないっ!? あたし、あれぜんぶ、おとなの人がつくったものだと思ってたっ!」
「……綾ちゃん。ちゃんと理解してくれたんだね」
有香ちゃん、「は~」っと息をついて。
「だけどね、一個も売れてないんだ……」
って、ぽつり。
「えっ!? ウソっ!? なんでっ!? あんなにカワイイのばっかりだったのにっ!」
「有香。やっぱりおとな相手の商売って、むずかしいもんなのか?」
真央ちゃんも、女子たちも、身をのり出してくる。
あのリンちゃんだって、「興味ないよ」って顔でツンとしてるけど、じっときき耳をたててる。
あたしたち小学生にとって、おとな相手に物を売るなんて、ものすごいこと。
自分たち子どもの常識が、おとなの世界でどこまで通用するか、知りたいんだ。
「……うん、むずかしいよ。中条のお母さんは、『お店自体が、まだはじめて間もなくて、あんまり知られてないから。お客さん自体が少ない』って、言ってくれるけど。中条も、『あせらないで、長い目で見れば?』って、言ってくれたし。
……でも、置いてもらって二週間もたつのに、一個も売れないだなんて。さすがに、落ち込んできちゃって……」
……だからだったんだ……。
有香ちゃんが、上の空でぼ~っとしてたり。ヨウちゃんのところにとんでいって、何かをせき切るように、話していたりしたのは。
「現実の世界で、勝負してみると、よくわかるね。ちょっと好きなことがあって、『わたしスゴイ』って、思い込んでても、そんなの、ただの自己満足だったって」
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