
「ちょっと、なに、みんなして、なっとくしてんのよっ!? こんなアホっ子のどこがいいのよっ!? 」
リンちゃんてば、あたしの顔を指さして、しつれい。
でも。え? なにっ? ……どういうこと?
「……そっかぁ。綾ちゃん、きのう一晩で、がんばってセリフ覚えたんだ。エラかったね」
有香ちゃんの手がのびてきて、あたしの頭をよしよしなでた。
あれ……?
「わたしはずっと、綾ちゃんがカワイイってこと、わかってたよ。綾ちゃんは、ちゃんと中条とつりあってるよ。この機会に、もっと押しまくっちゃいな」
「ちょっと、永井さん! なに勝手なこと言っちゃってるのっ!? 永井さんだって、最近は中条君と仲良くしてたじゃない。和泉さんに出し抜かれて、くやしくないの?」
「……あのさ~、リン。白熱してるとこ、悪いんだけど……」
リンちゃんの後ろで、真央ちゃんがぼそり。
「有香が中条としゃべってんのは、有香が、中条んちの店で、ハンドメイドの小物、売ってもらってるからだぞ」
――え?
リンちゃん、目が点。
女子たちも目が点。
あたしだって、目が点。
わっと、女子たちから歓声があがった。
「すご~い、永井さんっ! 劇の衣装もプロ級だって思ってたけど、やっぱりプロの腕前だったんだ~っ!! 」
「おとな相手に、商売してるなんて、カッコイイー 」
いっせいにしゃべりだした女子たちにかこまれて、有香ちゃん、たじたじ。
「え? う、うん。でも……そんなすごいものじゃなくてね……」
えっと……? あれ……?
あたしだけ、今ひとつ、頭がついていけてないんだけど……。
「……あの、有香ちゃん?」
あたしは、おそるおそる、有香ちゃんのメガネの中をのぞきこんだ。
「有香ちゃんは、ヨウちゃんとつきあってるんじゃなかったの? だから、ヨウちゃんちに、通ってるんじゃないの……?」
「あ、綾ちゃん!? なんで、そんな話になっちゃってるのっ!? 中条から、ちゃんときいてたんじゃなかったのっ!? 」
わっ! 有香ちゃんてば、すごい剣幕。
あたしの両手をぎゅっとつかんで、黒縁メガネの下から、ぐいぐいのぞき込んでくる。
「……きいてない……」
「ウソっ!? きいてないのっ!? あいつ、なに考えてるわけっ!? ふつう、真っ先に話すでしょっ! 綾ちゃんもだよっ!! きいてないなら、『きいてない』って言ってよ! わたし、てっきり、綾ちゃんは知ってるって、思い込んでたっ!
どうしよう、それじゃ、わたしずっと、知らないで、綾ちゃんのこと苦しめてたんだよねっ!? あ。綾ちゃん、まさか、だから最近、誠とばっかり話してたの? わたしとしゃべってくれなかったのは、そのせいっ!? 」
「……う……うん……」
もしかして、あたし……。
すっごいアホっ子……?
「……それじゃあ、有香ちゃんは、ヨウちゃんから告白されたわけじゃなかったの……?」
家庭科室に立ち込めてるのは、外の曇り空みたいに、どんより重たい空気。
女子たちは、あっちこっちに目を泳がせて、あたしたちに「気をつかってないよ」ってふりをしてくれてる。
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