《2》 ネバーランドへようこそ9 - ナイショの妖精さん3
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《2》 ネバーランドへようこそ9

  09, 2021 22:17
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 第二家庭科室の中が騒がしい。

 ミシンがニ十台。ごみごみならぶ、この中が、六年女子の着がえ室。

 有香ちゃんがつくってくれたウエンディの衣装は、白いひざ丈のワンピース。すそとそでにレースがついていて、スカートはふわっとふくらんでいて、ホタルブクロのお花みたい。

 腰までの長い、金髪のふわふわパーマのウィッグをつけて。目には、青いカラーコンタクトレンズを入れて。

 全身鏡の前に立ったら、あたし、まるで、人間大のヒメ。


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「おお~。綾、スゴイじゃん。本物のウエンディがここにいるっ!」


 真央ちゃんがパチパチはくしゅ。

 いつもは、あたしなんか知らんぷりの、ほかの女子たちまで、「和泉さん、カワイイ」「似合ってる」って言ってくれるから、鼻高々。


 ……ヨウちゃんに見せたら、少しはドッキリしてくれるかな……?


 男子は女子とは別々で、六年の教室で着がえてる。

 体育館では、すでにクリスマス会がはじまってて、今ごろ、トップバッターの一年生があどけない声で、クリスマスソングを歌ってるころ。

 だけど、ラストの六年は、準備でいそがしくて、今年はなんにも見れないんじゃないかな。


「……有香ちゃん。有香ちゃんがつくってくれた服、着てみたよ~」


 あたしはそろっと、有香ちゃんのほうへ歩いていった。

 自分から、有香ちゃんに話しかけるのなんて、二週間ぶり。

 だけど、ミシンの前に座っている有香ちゃんからは、なんの反応もなかった。黒縁メガネの下の目は、ぼんやりと窓の外をながめてる。

 最近の有香ちゃんって、あきらかにヘン。ぼうっとしたり。わって、弾丸みたいにヨウちゃんに話しかけたり。


 人は恋をしたら、不安定になるっていうけど。

 有香ちゃんでも、そうなんだね。


「有香ちゃん……。服をつくってくれてありがとう。ぴったりだよ」


 おずおず言ったら、有香ちゃんがやっと顔をあげた。


「……ああ、綾ちゃん。……どういたしまして……」


 そうしてまた、ハァって、ため息。


 もしかして、有香ちゃん。きのうあたしが、ヨウちゃんちに泊まったこと、知っちゃったっ !?


「あ、有香ちゃん、あのねっ!!  あたしがヨウちゃんちにお泊りしたのは、ただの特訓だからねっ! 一晩中、セリフを覚えてただけなのっ!!  だから、気にしないでっ!」


「……え?」


 有香ちゃん、ぽかん。


「綾、ホントか? 意外とやるじゃんっ!! 」


 ワニの着ぐるみをかぶった真央ちゃんが、あたしの背中をバンッとたたいた。


「最近、綾が、やけに中条のことをほったらかしにしてるから、まさか誠にのりかえたのかって、思ったりもしたけど。やるときゃやるんだな!」


「ちょっと和泉さん、それ本当なのっ!? 」


 後ろに、女子たちがあつまってきた。


「どうせまた、和泉さんが、中条君にストーカーしたんでしょっ!?  中条君も、いいめいわくよね。心が広いのもほどほどにしないと、こ~んなお子ちゃまにつけ込まれて、た~いへんっ!」


 ぎゃんぎゃんさわぐ、リンちゃん。



「でも、リン……。わたし、そろそろ、しょうがないって気もしてきたよ」


 青森さんがつぶやいた。

 青森さんは、ラメ入りピンクのスカートはいて、背中にセロハンでつくったトンボの羽を背負ってる。これ、ピーターパンを助ける妖精、ティンカーベルの衣装。有香ちゃんがデザインしたんだって。

 そしたら、女子たちも、口々に言い出した。


「わたしも。和泉さんって、そういうかっこうしてると、やっぱりカワイイなって思うし」

「和泉さんが誠と話してるときの中条君、はたから見ても、かわいそうだったもんね」

「もう、今さら、外野があんまりさわがなくてもいいんじゃない?」




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