
第二家庭科室の中が騒がしい。
ミシンがニ十台。ごみごみならぶ、この中が、六年女子の着がえ室。
有香ちゃんがつくってくれたウエンディの衣装は、白いひざ丈のワンピース。すそとそでにレースがついていて、スカートはふわっとふくらんでいて、ホタルブクロのお花みたい。
腰までの長い、金髪のふわふわパーマのウィッグをつけて。目には、青いカラーコンタクトレンズを入れて。
全身鏡の前に立ったら、あたし、まるで、人間大のヒメ。

「おお~。綾、スゴイじゃん。本物のウエンディがここにいるっ!」
真央ちゃんがパチパチはくしゅ。
いつもは、あたしなんか知らんぷりの、ほかの女子たちまで、「和泉さん、カワイイ」「似合ってる」って言ってくれるから、鼻高々。
……ヨウちゃんに見せたら、少しはドッキリしてくれるかな……?
男子は女子とは別々で、六年の教室で着がえてる。
体育館では、すでにクリスマス会がはじまってて、今ごろ、トップバッターの一年生があどけない声で、クリスマスソングを歌ってるころ。
だけど、ラストの六年は、準備でいそがしくて、今年はなんにも見れないんじゃないかな。
「……有香ちゃん。有香ちゃんがつくってくれた服、着てみたよ~」
あたしはそろっと、有香ちゃんのほうへ歩いていった。
自分から、有香ちゃんに話しかけるのなんて、二週間ぶり。
だけど、ミシンの前に座っている有香ちゃんからは、なんの反応もなかった。黒縁メガネの下の目は、ぼんやりと窓の外をながめてる。
最近の有香ちゃんって、あきらかにヘン。ぼうっとしたり。わって、弾丸みたいにヨウちゃんに話しかけたり。
人は恋をしたら、不安定になるっていうけど。
有香ちゃんでも、そうなんだね。
「有香ちゃん……。服をつくってくれてありがとう。ぴったりだよ」
おずおず言ったら、有香ちゃんがやっと顔をあげた。
「……ああ、綾ちゃん。……どういたしまして……」
そうしてまた、ハァって、ため息。
もしかして、有香ちゃん。きのうあたしが、ヨウちゃんちに泊まったこと、知っちゃったっ !?
「あ、有香ちゃん、あのねっ!! あたしがヨウちゃんちにお泊りしたのは、ただの特訓だからねっ! 一晩中、セリフを覚えてただけなのっ!! だから、気にしないでっ!」
「……え?」
有香ちゃん、ぽかん。
「綾、ホントか? 意外とやるじゃんっ!! 」
ワニの着ぐるみをかぶった真央ちゃんが、あたしの背中をバンッとたたいた。
「最近、綾が、やけに中条のことをほったらかしにしてるから、まさか誠にのりかえたのかって、思ったりもしたけど。やるときゃやるんだな!」
「ちょっと和泉さん、それ本当なのっ!? 」
後ろに、女子たちがあつまってきた。
「どうせまた、和泉さんが、中条君にストーカーしたんでしょっ!? 中条君も、いいめいわくよね。心が広いのもほどほどにしないと、こ~んなお子ちゃまにつけ込まれて、た~いへんっ!」
ぎゃんぎゃんさわぐ、リンちゃん。
「でも、リン……。わたし、そろそろ、しょうがないって気もしてきたよ」
青森さんがつぶやいた。
青森さんは、ラメ入りピンクのスカートはいて、背中にセロハンでつくったトンボの羽を背負ってる。これ、ピーターパンを助ける妖精、ティンカーベルの衣装。有香ちゃんがデザインしたんだって。
そしたら、女子たちも、口々に言い出した。
「わたしも。和泉さんって、そういうかっこうしてると、やっぱりカワイイなって思うし」
「和泉さんが誠と話してるときの中条君、はたから見ても、かわいそうだったもんね」
「もう、今さら、外野があんまりさわがなくてもいいんじゃない?」
次のページに進む
前のページへ戻る

にほんブログ村

児童文学ランキング
スポンサーサイト