

「や、ヤダっ!」
両手で、ドンっと、ヨウちゃんの胸を押した。
お芝居の中でなんてっ! 本当のキスじゃないっ!!
ヨウちゃん、目を見開いて、かたまる。
「よ、ヨウちゃん、なにすんのっ!? もうちょっとで、くちびるがくっつくとこだったじゃないっ!」
「……だから、フリだって」
ぼそっとつぶやかれて、ハッとした。
「で。綾、本気であした、これを全校児童の前でする気か?」
顔がボッと、火を噴いたみたいに熱くなる。
「……だ、だって……」
「おまえがしようとしてるのは、こういうことだぞ?」
……そうだ……。
あたし、あした誠と、こんなことしようとしてたんだ……。
「……ヤダ……」
ヨウちゃんじゃない人と、キスなんて、ぜったいにしたくない……。
「……フリでもヤダ……」
「……だろ?」
ヨウちゃんの口元がゆるんだ。
「あした、オレから倉橋に、やめろって言ってやるから」
コクンとうなずく。
下を向いたら、蛇口が壊れたみたいに、涙が目からぼろぼろこぼれた。
「……綾。ごめんって。おどろかせて、悪かった。……泣くなよ……」
「……ちがう……。ちがうの……」
だって、ヨウちゃん……。
今、だれのことを考えて、キスしようとしたの……?
あんな熱っぽい目で。
あたしを通して、あたし以外の人を見てたの……?
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