《2》 ネバーランドへようこそ7 - ナイショの妖精さん3
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《2》 ネバーランドへようこそ7

  01, 2021 00:17
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「……えっ?」


 だけど、キスシーンが……。



「……じゃあ、オレから。――ウエンディ。おとなになんかなる必要ないよ。ぼくといっしょに子どものままで、楽しいことだけ考えて暮らそう……」


 ……わ……声、低い。


 それに、誠がハキハキ読みあげるところを、そんな細々と読まれたら。


「ヨウちゃんって、ぜんぜんピーターパンっぽくないね。やっぱり、ピーターパンは誠で正解」


「うるさい。次は、ウエンディのセリフ」


「はいはい。え~っと。――ピーターパン。それでもわたし、おとなになるのはステキなことだって、気づいたの。あなたに恋をしたからよ」


 ヤダもう、ほっぺた熱い。

 リンちゃんてば、なんでこんな、べったべたなセリフ書いちゃったわけ?


 ヨウちゃんの琥珀色の瞳が、まっすぐにあたしを見おろしてるし。

 ほっぺたの熱で、のぼせちゃって、頭くらくら。


「えっと。ピーターパン。わたしといっしょに人間の世界に行きましょう……」



「……イヤだよ。ぼくは行かない」


 ぎゅっと、心臓を大きな手のひらでにぎりつぶされた気がした。


「おとなになんか、なるもんか」


 ……ヨウちゃん……お芝居の中でさえ、あたしとつきあってくれないんだ……。


「……綾?」


 ヨウちゃんがまばたきした。

「あっ」と思って、目元をふく。


 ……あれ? あたし……泣いてた?

「……スゴイな、綾。ちゃんと、感情移入できるじゃねぇか」


 ちがうよ。相手が、ヨウちゃんだからだよ……。


 だけど、今ので思い知らされた。今まで、自分がどんなに棒読みだったか。

 感情が入ったとたんに、お話にぐっと重みが出たみたい。


「次、行くぞ。フック船長に、みんなつかまる。海賊船で板わたりの刑をさせられそうになったウエンディを、ピーターパンが助ける。はい、ウエンディ、セリフ」


「ピーターパン。おとなになるわたしを許して。でも、わたしの心は……」


 脚本から目をはなして、顔をあげたら、ふれられる距離でヨウちゃんの顔があった。


 ドキン、ドキン。


 心臓が痛い……。


「わたしの心は……永遠に、あなただけのもの……」


 あ……ここから、キスシーン……。



 ふわっと、左のほっぺたに、あったかい手のひらがふれた。


 ……え?


 ヨウちゃんが腕をのばして、あたしのほっぺに右手のひらをそえている。


 近づいてくる琥珀色の瞳。熱を帯びてうるんでいて、ぐいぐい目の中に飲み込まれる――。





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