《1》記憶の実、ころり 10 - ナイショの妖精さん1
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《1》記憶の実、ころり 10

  26, 2018 20:27
2018091201



 怖い……。


 なにが怖いって、度胸だめしすることが、じゃなくて。

 片眉がひくついている中条の顔が。


 これでもし、妖精がいなかったら、あたしこれから、本腰入れていじめられるんじゃ……。


 せっかく、妖精が入っていった場所を確かめるチャンスなのに。中条のオーラが怖すぎで、ぜんっぜん楽しめない。


 ひとつ、ふたつ、三つ……。

 先頭に立って、アーチ状の入り口から、中をのぞき込んでいく。

 ならんだ穴の中はどこも、しんと暗い。
 車庫みたいに長方形した部屋は、がらんどう。古いレンガの壁のすき間から、冷たい闇が染み出してる。

 中条はあたしの数歩後ろを、めんどくさそうについてくる。
 あたしが三歩歩くところを、長いコンパスの足で一歩。わざとのろのろ足を出してるところが、嫌味な感じ。

 お互い無言で、アーチ状の入り口の前を通りすぎて。



 四つ目の部屋。


 のぞきこんだら、真ん中で、小さな銀色の粒がまたたいた。


 なんだろ……?

 暗がりに目が慣れてなくて、そこだけチカチカして見えるのかな?


 周囲が見えてきて、チカチカの光が輪郭をつくっているのに気がついた。

 トンボの羽。

 細かい光がラメみたいに無数にちりばめられていて、部屋の中央で、小さな銀色の羽を形づくってる。

 羽だけじゃなくて、羽のはえた小さな人にも、光の粒はふりかけられていた。


 ……さっきの子っ!


 バレリーナみたいな白い服の女の子。赤紫色の花を手に、がらんどうの部屋にたたずんでる。

 その子の前に、もうひとりの妖精が横たわっていた。

 顔立ちは中学生くらいかな? 白いレースのロングドレス。ふわふわパーマの長い髪に、小花のかんむりをつけて。目を閉じて、両手を胸の上で組んでいる。

 だけど、その子の肌を見て、目をつむっちゃいたくなった。


 だって、かわいそう……。


 カワイイ顔や真っ白の細い手足のあちこちに、カビみたいな緑の斑点ができている。目もずっと開けないし。


 なんかの病気……?


 バレリーナの女の子が、ふわふわパーマの少女のかたわらに、そっと赤紫色の花を置いた。少女のまわりには、ほかにもたくさん、赤紫色の花が置かれてる。


 キレイなんだけど、棺桶みたい……。



「やっぱ、なんもいないな」



「……え?」


 ふり返ったら、あたしの後ろから、中条がつまらなそうに、中をのぞき込んでいた。


「ったく、時間ソンした。ほら、さっさと集合場所もどるぞ」

「えええっ!? 」


 信じらんない! なんで中条には見えないのっ !?

 お花畑では、ちゃんと見えてたのにっ!


「ちょ、ちょっと、中条っ!! 」


 とっさに、相手の左腕をつかんだら。


「う、うわっ!? 」


 筋張った太い左腕が、ビクッと痙攣した。


 ……え?


「な、なんだっ !? おまえ、急にさわるなっ!」


 ……あれ……?


 あたしに怒鳴りちらしてるあご、ガクガク震えてる。


 これって……見えてる……よね?


「ひ、ひ、ヒドイ、中条っ! なんで、見えてないふりするのっ !?」


「なにをだよっ !? 見えねぇよっ!! 」


 
 瞬間。

 部屋の中から、パッと銀色の羽が飛び出してきた。

 あたしの肩を越えて、バレリーナの女の子が中条に向かっていく。


「!」


「昔どこかで見たような感じ」がズンと、あたしの胸をついた。







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