《2》 ネバーランドへようこそ6 - ナイショの妖精さん3
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《2》 ネバーランドへようこそ6

  27, 2021 22:09
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 しかたなく、またセリフを読みあげはじめたんだけど。

 すぐに、ダメ出し。


「綾さ。読むことばっかりに、頭つかってるから、セリフが入ってこないんじゃねぇの? いったん、セリフからはなれて、ウエンディの気持ちになって、考えてみろよ。

この話、倉橋がなんのつもりで書いたか知らねぇけど、ラブストーリーになってんだろ? ウエンディはピーターパンが好きなのに、ピーターパンは永遠の子どもでいたいから、ウエンディの気持ちに応えない。ウエンディはせつない片想い中なんだよ」


 あ。……ムカっ!


「そんな気持ち、ヨウちゃんなんかより、あたしのほうが、ずっとよくわかってるもんっ!」


 下からにらみつけたら、ヨウちゃん、ぐっとつまった。


「……わかるんだったら、かんたんだろ? ほら、やってみろ」


 だから、なんでそう、人ごとなわけっ!?


 ヨウちゃんはもう、あたしから背を向けちゃって、知らんぷり。



 ため息をついて、あたしはゆりイスの上で、脚本読みを再開。


「……えっと。フック船長につかまった子どもたち。ジョン、マイケル、ウエンディ。海賊船で、フック船長が、板わたりの刑をやらせようとしているとき、ピーターパンが助けに来て……それで……」

「ト書きはいいから、ウエンディのセリフ」

「えっと。セリフ、セリフ……。あった。『ピーターパン。おとなになるわたしを許して。でも、わたしの心は永遠に、あなただけのもの』と言って、ウエンディとピーターパンがキス」


 ヨウちゃん、ブッとふき出した。


「は、はぁ  なんだ、それっ!?  オレの脚本には『ピーターパン、助けにきてくれてありがとう』しか書いてないぞっ!! 」


「あ、そう言えば、サプライズって書いてある……」


「……は?」


 ヨウちゃんが、横からあたしの脚本をのぞきこんできた。

 パソコンで打たれた脚本の横に、リンちゃんの紫のラメペンで、「ここは本番だけのサプライズ。ピーターパンとウエンディ以外の人には知らせちゃダメ(キスはフリだけで可)」って書いてある。


「そうだ。この脚本って、お姫さま抱っこが取りやめになったあとで、リンちゃんがあたしにくれたヤツだよ」

「はぁ? オレはそんなのわたされてねぇけど」

「うん。たぶん、新しいのをわたされたのって、あたしと誠だけ」

「って、おまえはなんで、そんな冷静なんだよ。倉橋におちょくられてんのが、わかんねぇのか? ぼっとしてないで、こんな脚本もらった時点で、つき返せっ!」


 そんなのわかってたもん……。


 リンちゃんにとってあたしは、ヨウちゃんに近寄るオジャマ虫。誠とくっつけて、退散させちゃいたいんだよね。

 そうは言っても、本命の有香ちゃんには、手も足も出せないんだろうけど。


 でも……ヨウちゃんには、関係ないじゃんっ!


「いいじゃん、べつに。キスはフリだけでいいって、書いてあるし。お芝居の中だけのことでしょ? 誠だって、知ってるはずなのに、なんにも言ってこないよ。それにさ。相手は、誠だもん。ほかの男子とだったら怖いけど、誠となら、べつに……」


「……お、おまえな……」


 顔を赤くして、ヨウちゃん、もっと言いかけたけど、眉をしかめてうつむいちゃった。


「そうか……。いいのか……誠となら……」


 ……あれ? なんか、目のふち赤い……?


「え? あ、ち、ちがうよっ!?  だって、誠って、なんていうか、あたしと感覚が似てるんだもん。男っぽい怖さ? みたいなのがなくってさ。いっつも、となりでニコニコ笑っててくれる感じ? だから、なんて言うか、安心感があって……」


「……ふ~ん。誠は……ずいぶん信頼されてんだな」


 歯のすき間からもれてくる、ザラザラの声。

 背中でつくえにもたれて。ヨウちゃん、彫刻になっちゃったみたいに、顔をあげない。


 コチコチと時計の音。




「……なあ、綾。読み合わせしてやろうか?」


 前髪の下から、琥珀色の目があたしを見た。


「オレがピーターパン役やってやるよ」





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