
……なんだったんだろ……?
ヨウちゃんは、有香ちゃんとつきあってるんだよね?
じゃあ、教室でのアレは、あたしの空耳?
「……だよね~」
ハァ~ってため息をついて、ひとりでなっとく。
「和泉ぃ、バイバ~イ」
「バイバイ、また、あした~」
誠に手をふって、校門を出て。
暮れはじめたうす曇りの道を、あたしは自分の家へ歩き出す。
「……おい、綾っ!」
校門の裏で、琥珀色の髪の男子が腕を組んでいた。
「おまえはオレんち。特訓だって、言ったろっ!? 」
「えっ!? あ、あれっ!? 空耳じゃ……なかったのっ!? 」
「んなわけねぇだろっ! ちょっとは危機感持てよ。あしたはもう、クリスマス会、当日なんだぞっ!! おまえ、きょう、塾は?」
「ない日」
「じゃ、問題ないな。来い! うちにかんづめだっ!! 」
ヨウちゃんにランドセルを押されて、反対側へ歩かされる。
ええええ~っ!?
海を左に数分行くと、懐かしいヨウちゃんちの高台が見えてくる。
「おかえりなさい。――あら、綾ちゃん、いらっしゃい」
自宅カフェ「つむじ風」の店内に入ると、ヨウちゃんのお母さんが迎えてくれた。
いつもとかわらないぽっくりエクボ。
「こ、こんにちは」
だけどあたしは、ランドセルをゆらして、店内をキョロキョロ。
「……あの……有香ちゃんは……?」
「永井は、きょうは来ないだろ。きのう来たとき、きょうは塾で遅くなるって、言ってたし」
ふ~ん。もう、相手の予定まで把握しちゃう仲なんだ……。
店内を見わたして、少しかわっていることに気がついた。
玄関の横に、山で切り出してきたみたいな切り株が何株か置かれていて、その上に布製の小物がならんでる。
おサイフとか、ポーチとか。天井からつられているのは、トートバッグや、ハーブの写真がプリントされたTシャツ。
お客さんが、お土産を買えるコーナーができたみたい。
「わ……カワイ~」
パッチワーク柄のポーチに見とれてたら、後ろにヨウちゃんが立った。
「それ、永井からきいてるだろ?」
きいてないよ。なんにも。
「あたし、最近、誠としか話してないもん」
つんっと言ったら、ヨウちゃんは言葉を飲んだ。
「……そっか。……だな。悪かったな。特訓って、オレより誠に教わったほうがよかったな」
顔をそむけて、ジーンズのポケットに両手をつっ込んで。もう、トントン書斎におりていく。
「綾ちゃん」
カウンターの中からお母さんに呼ばれた。
「あれでも、あの子……ずっと綾ちゃんに家に来てほしくて、うずうずしてたのよ」
「……う、ウソぉ」
だって……ヨウちゃんには、有香ちゃんが……。
「綾。早く来い。時間がなくなる」
下で、ヨウちゃんが呼んでる。
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