《2》 ネバーランドへようこそ1 - ナイショの妖精さん3
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《2》 ネバーランドへようこそ1

  20, 2021 21:50
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「おはよ~」

「おはよ」

「はよ~!」


 クラスメイトたちの声があちこちであがる、朝の教室。

「土日、なにしてた~?」「ずっと家でゲーム」なんて声もきこえてくる。


「綾ちゃん、真央、おはよう」


 有香ちゃんがランドセルを背負って、まっすぐあたしの席に歩いてきた。


「おはよ。有香」


 あたしの横で窓枠にもたれて、真央ちゃんは軽く返したけど、あたし、イスに座ったままで、下を向いちゃった。


 ……気まずい。


 きのう。有香ちゃんは、いつヨウちゃんちから帰ったんだろう。

 あたしとヨウちゃんが、お昼前に書斎にもどったとき、有香ちゃんはすでに家に帰ったあとだった。


「……綾ちゃん……。きのうはごめんね? びっくりしたよね?」


 黒縁メガネの下で、有香ちゃんの切れ長の目が、不安そうにあたしをうかがってる。


「ごめんね」は、あたしのほうなんだけど。


 だって、あたし、わざわざ家にたずねてきた有香ちゃんをさし置いて、ヨウちゃんをひとり占めしてたんだから。


 ぎゅっと、目をつぶって。

 目を開けて、あたし、有香ちゃんににっこり笑いかけた。


「有香ちゃん、気にしないで。それより、がんばってっ!」


 たしかに、あたしはヨウちゃんのことが好きだけど。

 有香ちゃんのことも好き。

 親友にカレシができそうなんだから、素直によろこばなくっちゃいけないよね。


「よかった……。綾ちゃん、中条からきいたんだ……」


 有香ちゃんの目から力が抜けた。


 あ……「中条」呼びにもどってる。


「え? なんのこと? なんのこと?」って真央ちゃん。


「真央には、あとで話すから。――そっか。中条がらみだから、綾ちゃんにはちょっと悪いかなって、わたしからは、なかなか言い出せなかったんだ。でも、ま、ちゃんと伝えてもらえて、よかった。わたしもこれが原因で、綾ちゃんとヘンにギクシャクしちゃうの、イヤだし」


 有香ちゃんのほっぺたに笑みがうかんでる。


 あれ……? なんでだろ?


 今、有香ちゃんの声、ききたくない。


「そんなわけで、わたし、これからちょくちょく、中条の家に行くことになると思うけど。綾ちゃんは、気にしないでね」


「え~? なんでだよ~?」って、真央ちゃんがつっこみを入れるのを、有香ちゃん「だから、あとで教える」ってとめた。


「よくって……どれくらい?」


「えっと。一日おきくらいかな?」


 ……そんなにっ!?


「あ、でも、塾の帰りやバレエの帰りに寄るくらいだから。そんなに長い時間じゃないよ?」


「……そっかぁ」


 気をつけないと、くちびるが震えてきちゃう。


 有香ちゃん……。

 おけいこ事があっても、ムリしてでも、ヨウちゃんに会いたいんだ……。






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