
「おはよ~」
「おはよ」
「はよ~!」
クラスメイトたちの声があちこちであがる、朝の教室。
「土日、なにしてた~?」「ずっと家でゲーム」なんて声もきこえてくる。
「綾ちゃん、真央、おはよう」
有香ちゃんがランドセルを背負って、まっすぐあたしの席に歩いてきた。
「おはよ。有香」
あたしの横で窓枠にもたれて、真央ちゃんは軽く返したけど、あたし、イスに座ったままで、下を向いちゃった。
……気まずい。
きのう。有香ちゃんは、いつヨウちゃんちから帰ったんだろう。
あたしとヨウちゃんが、お昼前に書斎にもどったとき、有香ちゃんはすでに家に帰ったあとだった。
「……綾ちゃん……。きのうはごめんね? びっくりしたよね?」
黒縁メガネの下で、有香ちゃんの切れ長の目が、不安そうにあたしをうかがってる。
「ごめんね」は、あたしのほうなんだけど。
だって、あたし、わざわざ家にたずねてきた有香ちゃんをさし置いて、ヨウちゃんをひとり占めしてたんだから。
ぎゅっと、目をつぶって。
目を開けて、あたし、有香ちゃんににっこり笑いかけた。
「有香ちゃん、気にしないで。それより、がんばってっ!」
たしかに、あたしはヨウちゃんのことが好きだけど。
有香ちゃんのことも好き。
親友にカレシができそうなんだから、素直によろこばなくっちゃいけないよね。
「よかった……。綾ちゃん、中条からきいたんだ……」
有香ちゃんの目から力が抜けた。
あ……「中条」呼びにもどってる。
「え? なんのこと? なんのこと?」って真央ちゃん。
「真央には、あとで話すから。――そっか。中条がらみだから、綾ちゃんにはちょっと悪いかなって、わたしからは、なかなか言い出せなかったんだ。でも、ま、ちゃんと伝えてもらえて、よかった。わたしもこれが原因で、綾ちゃんとヘンにギクシャクしちゃうの、イヤだし」
有香ちゃんのほっぺたに笑みがうかんでる。
あれ……? なんでだろ?
今、有香ちゃんの声、ききたくない。
「そんなわけで、わたし、これからちょくちょく、中条の家に行くことになると思うけど。綾ちゃんは、気にしないでね」
「え~? なんでだよ~?」って、真央ちゃんがつっこみを入れるのを、有香ちゃん「だから、あとで教える」ってとめた。
「よくって……どれくらい?」
「えっと。一日おきくらいかな?」
……そんなにっ!?
「あ、でも、塾の帰りやバレエの帰りに寄るくらいだから。そんなに長い時間じゃないよ?」
「……そっかぁ」
気をつけないと、くちびるが震えてきちゃう。
有香ちゃん……。
おけいこ事があっても、ムリしてでも、ヨウちゃんに会いたいんだ……。
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