
フェアリー・ドクターの薬をつくるのって、そんな、かんたんじゃないこと、あたしは知ってる。
比率も量もぜんぶ正確じゃなくちゃならない。だから、何度も何度も失敗して、そのたびにつくり直す。やっとできあがったころには、へとへとに、つかれ果てちゃう。
それでも、ヨウちゃん、つくってくれたんだ……。
あたしは右手をのばして、ヨウちゃんのウインドブレーカーの背中を、ぎゅっとつかんだ。
「……ヨウちゃん……お願い。どこにも行かないで……」
「……綾?」
ヨウちゃんが、まばたきして、あたしを見おろす。
「……どうした?」
だけど、あたしはぶんぶん首を横にふった。
わけなんか言えない。言ったら、ヨウちゃんは本当に、となりからいなくなる。
お願い。
別の子のところへ、行っちゃわないで……。
左から右に、銀色の光の粒が横切った。
ヨウちゃんが、ハッと顔をあげる。
星を散りばめたように光るのは、トンボの羽。
トンボの羽を背中につけた手のひらサイズの子が、ひとり、ふたり、砲弾倉庫跡に入ってくる。
「チンチンチン」
心地いい金の音のような、妖精の声。
「……来てくれたんだ……」
ひとり、ふたり、三人、四人……。
妖精たちが、あたしたちをかこんで飛びはじめる。
銀色の羽ではばたいて、くるりくるりと宙返り。
バレリーナのような衣装をまとった女の子が、つっと、目の前におりてきた。
「チチっ!」
チチは、さし出したあたしの手のひらの上に、ぴょこんと立った。しぱしぱ、まばたくつりあがり型の寄り目。口元がにっこり笑ってる。
「……怒ってないの……?」
ふわふわパーマの長い金髪に、花かんむりをつけた妖精も、あたしたちの前におりてきた。
「ヒメっ!」
ツツジのめしべのように細い両手で、白いロングドレスのすそをつかんで、ふんわりおじぎ。
ヒメも……笑ってくれてる……。
胸が軽くなって。このまま、ぼんやり妖精たちをながめちゃいそうになって。
あたし、あわてて、妖精たちの中で立ちあがった。
「あ、あのっ! チチ、ヒメ、ここにいる妖精さんたち! きょうは、みんなにあやまりたくて来ましたっ! こ、こないだは、大事な羽を傷つけるようなことをして、ごめんなさいっ! あ、あたしもう、二度と、あなたたちを傷つけたりしませんっ!! 」
「……綾のせいじゃない」
あたしの横で、ヨウちゃんも立ちあがった。
「綾にゴースの針をわたしたのは、オレだ。なにかあったらつかえって、オレが言った。だから、綾の責任じゃなくて、オレの責任だ」
……ヨウちゃん……。
「ちがうよ。つかったのは、あたしで……」
「だから、わたしたのは、オレだって!」
「チチチチチ」
顔をあげると、倉庫の中に、銀色の世界が広がっていた。
キラキラ、銀色のりんぷんの光をまき散らしながら、妖精たちが舞う。
くるり、くるり、宙返り。
ふたり、両手をとりあってダンスしたり。
まるで、遊園地のパレード。
「……許してくれるの……?」
妖精は気まぐれやさん。
ふっと姿をあらわしたり。急に何日もどっかに行っちゃったり。
「……な? 気にしなくてへいきだって、言ったろ?」
ヨウちゃんが、ふわっとほほえんだ。
「……うん……。だけど、あたし、やっぱりちゃんとあやまれて、よかった。ヨウちゃん、ありがとう」
ヨウちゃんを見あげる、あたしのほっぺた。のぼせたみたいに熱い。

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