《1》 好きな人の、好きな人21 - ナイショの妖精さん3
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《1》 好きな人の、好きな人21

  15, 2021 22:01
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 フェアリー・ドクターの薬をつくるのって、そんな、かんたんじゃないこと、あたしは知ってる。

 比率も量もぜんぶ正確じゃなくちゃならない。だから、何度も何度も失敗して、そのたびにつくり直す。やっとできあがったころには、へとへとに、つかれ果てちゃう。


 それでも、ヨウちゃん、つくってくれたんだ……。


 あたしは右手をのばして、ヨウちゃんのウインドブレーカーの背中を、ぎゅっとつかんだ。


「……ヨウちゃん……お願い。どこにも行かないで……」


「……綾?」


 ヨウちゃんが、まばたきして、あたしを見おろす。


「……どうした?」


 だけど、あたしはぶんぶん首を横にふった。

 わけなんか言えない。言ったら、ヨウちゃんは本当に、となりからいなくなる。


 お願い。

 別の子のところへ、行っちゃわないで……。


 左から右に、銀色の光の粒が横切った。

 ヨウちゃんが、ハッと顔をあげる。

 星を散りばめたように光るのは、トンボの羽。

 トンボの羽を背中につけた手のひらサイズの子が、ひとり、ふたり、砲弾倉庫跡に入ってくる。


「チンチンチン」


 心地いい金の音のような、妖精の声。


「……来てくれたんだ……」


 ひとり、ふたり、三人、四人……。


 妖精たちが、あたしたちをかこんで飛びはじめる。

 銀色の羽ではばたいて、くるりくるりと宙返り。


 バレリーナのような衣装をまとった女の子が、つっと、目の前におりてきた。


「チチっ!」


 チチは、さし出したあたしの手のひらの上に、ぴょこんと立った。しぱしぱ、まばたくつりあがり型の寄り目。口元がにっこり笑ってる。


「……怒ってないの……?」


 ふわふわパーマの長い金髪に、花かんむりをつけた妖精も、あたしたちの前におりてきた。


「ヒメっ!」


 ツツジのめしべのように細い両手で、白いロングドレスのすそをつかんで、ふんわりおじぎ。


 ヒメも……笑ってくれてる……。


 胸が軽くなって。このまま、ぼんやり妖精たちをながめちゃいそうになって。

 あたし、あわてて、妖精たちの中で立ちあがった。


「あ、あのっ! チチ、ヒメ、ここにいる妖精さんたち! きょうは、みんなにあやまりたくて来ましたっ! こ、こないだは、大事な羽を傷つけるようなことをして、ごめんなさいっ! あ、あたしもう、二度と、あなたたちを傷つけたりしませんっ!! 」


「……綾のせいじゃない」


 あたしの横で、ヨウちゃんも立ちあがった。


「綾にゴースの針をわたしたのは、オレだ。なにかあったらつかえって、オレが言った。だから、綾の責任じゃなくて、オレの責任だ」


 ……ヨウちゃん……。


「ちがうよ。つかったのは、あたしで……」

「だから、わたしたのは、オレだって!」


「チチチチチ」


 顔をあげると、倉庫の中に、銀色の世界が広がっていた。

 キラキラ、銀色のりんぷんの光をまき散らしながら、妖精たちが舞う。

 くるり、くるり、宙返り。

 ふたり、両手をとりあってダンスしたり。

 まるで、遊園地のパレード。


「……許してくれるの……?」


 妖精は気まぐれやさん。

 ふっと姿をあらわしたり。急に何日もどっかに行っちゃったり。


「……な? 気にしなくてへいきだって、言ったろ?」


 ヨウちゃんが、ふわっとほほえんだ。


「……うん……。だけど、あたし、やっぱりちゃんとあやまれて、よかった。ヨウちゃん、ありがとう」


 ヨウちゃんを見あげる、あたしのほっぺた。のぼせたみたいに熱い。


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