
だって、だって、「才能」だよっ!!
あたしの隠れた才能が、見つかるかもしれないんだよっ!?
「っしゃ~っ!! じゃあ、オレ、さっそく職員室行って、和泉の分も、先生に申し込みしてもらってくる~!」
「わ~い、おねが~いっ!! 」
廊下にとびだしていった誠に、にっこにこで手をふっていたら、「綾」って、真央ちゃんが、ひたいを寄せてきた。
「テンション高いところ、悪いんだけど。いいのか? 誠とふたりでどっか行くとか。綾って、ちょっと前に、誠から告白されてたろ?」
「え? もう、ことわったよ? 誠とは『友だち』って、約束してるもん。友だちどうしなら遊びに行ったって、おかしくないでしょ?」
真央ちゃん、有香ちゃんと顔を見合わせてる。
「……まぁ。うち的には……綾がいいなら、なんでもいいんだけど……」
「わたしも……かまわないとは、思うけど……」
ふたりが、そわそわ後ろをふり返ったから、あたしもつられて、ふり返った。
後ろのロッカーに背中でもたれて、ヨウちゃんが大岩と笑ってる。自分たちの会話に夢中で、あたしの存在自体わすれてそう。
ふ~んだ!
あたしだって、とびっきりの才能、発掘してやるんだからっ!
有香ちゃんみたいに、キラキラかがやいちゃって、今にヨウちゃんをメロメロにしてやるんだからね~っ!!
「さぁ、ウエンディ。いっしょにネバーランドへ行こう!」
誠が脚本を片手に、あたしに向かって、手をさしだしてくる。
「い、いく、わ。ピーターパン」
あたしも、脚本を片手に、誠の手を取る。
「ウエンディ。楽しいことを考えて。空を飛べるから」
「た、たのしいこと。たのし、いことは、え~っと……」
「ストッープっ!」
リンちゃんの甲高い声が、六年生の教室にひびきわたった。
ただ今、六時間目の劇の準備の時間。
有香ちゃんたち衣装係は、廊下側で席をくっつけて、服決め会議を開いていて。
大道具は、教室の後ろで、大河原先生といっしょに、ダンボールに絵の具を塗ってる。
で。あたしたち、役のある人たちは、窓ぎわで劇の練習。
「和泉さん。なんでそんなに棒読みなのっ!? あと、セリフを読むのばっかりで、体がぜんぜん動いてないんだけどっ!」
リンちゃんは、脚本をメガホンみたいに丸めて、手のひらで、ポンポン。
「だ、だって~……。ウエンディって、セリフ多くて、読みあげるのも、たいへんで~」
「いっとくけど、本番はセリフ、丸暗記だからね! 脚本なしで言うんだよ」
「うわ~んっ!! そんなのムリ~っ!! 」
「なにがムリよ。あたりまえのことでしょ? そんなんでよく、ウエンディを引き受けたよね?」
だって、自分がアホっ子だってこと、すっかりわすれてたんだもん。
今、はっきりわかった。
あたしは、演劇の才能、ゼロ。
「はい、次。ピーターパンが、ウエンディをお姫さま抱っこするシーンね」
リンちゃんがパンって手をはたいたから、あたし「ほぇ?」ってかたまった。
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