
……め?
めっ!?
あたしは、朝の教室の自分の席で、 もんもんとしてる。
きのう。ヨウちゃん、「め」って言いかけた。
ってことは、ヨウちゃんの好きな人は、名前に「め」がつく女の子?
うちのクラスだと「めぐみちゃん」と「めいちゃん」。
ふたりとも、ヨウちゃんのファンだけど、アイドルのコンサートの話でもりあがったりもしてる。
だから、なんていうか。ヨウちゃんにすごく遠くはないけど、すごく近くもない、みたいな。
「おはよ。どうしたんだよ、綾。むずかしい顔して」
真央ちゃんがあたしの席にやってきた。
真央ちゃんは、オトコ言葉をつかうし、タイトなミニスカートから、むちむちの太ももをでーんとのぞかせてても、気にしないほどのオトコマエ。
だけど、ふわふわ天然パーマのボブ頭と、大福みたいなふくふくほっぺは、すごく女の子だと思う。
「あのね、今、『め』が頭につく言葉をさがしてるの」
「なになに? しりとりか? め、メダカ? めんつゆ? メタボ?」
う~ん。ぜんぜんちがう……。
頭を抱え込んでたら、教室に入ってくるヨウちゃんが見えた。ほかの子たちより、頭ひとつ分、背が高い。琥珀色の髪、きょうもめだってる。
ヨウちゃんと話しながら入ってくる女子を見て、「あれ?」って思った。
黒縁メガネに、ふたつにわけて胸のところでたらした黒い髪。有香ちゃん。
有香ちゃんがヨウちゃんとふたりきりで話してるところなんて、はじめて見た。
ヨウちゃんは、学校仕様の冷めた目で、ジーンズの後ろポケットに両手をつっこんで。
有香ちゃんは、バレエ仕込みの背すじを、しゃんとのばして。
ぼそぼそ、ぼそぼそ、マジメな顔つき。
教室がにぎやかすぎて、窓ぎわのあたしの席にまで、ふたりの声はとどかない。
あ……今、有香ちゃんが、ニコって笑った。
いつもは、ヨウちゃんを見ただけで、親の仇みたいににらみつけるのに。
「じゃ」って、右手をあげて。ヨウちゃんが、自分の席に歩き出す。
「おはよう。ふたりとも」
有香ちゃんは、まっすぐこっちにやってきた。
「めずらしいな、有香が中条と話してるなんて」
真央ちゃんもきょとん。
「うん……。ちょっと、ね。まぁ、いろいろあって。さすがに、わたしも、あんなこと言われちゃったら……。そう悪い話じゃないなとか、考えちゃってね……」
有香ちゃん、あごの下に手を置いて、窓のほうを流し見。
え……? なにそれ……。
「有香ちゃん、ヨウちゃんに、なにか言われたの……?」
おそるおそるたずねたら、有香ちゃんが、ハッと、あたしを見おろした。
「あ。綾ちゃん、ごめん。たいしたことじゃないから、気にしないで」
気にするよ~っ!!
もしかして、「め」って、「メガネをかけた子」の「め」?
ヨウちゃんの好きな人って、有香ちゃんっ!?
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