《1》 好きな人の、好きな人9 - ナイショの妖精さん3
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《1》 好きな人の、好きな人9

  03, 2021 22:44
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……め?


 めっ!?


 あたしは、朝の教室の自分の席で、 もんもんとしてる。

 きのう。ヨウちゃん、「め」って言いかけた。


 ってことは、ヨウちゃんの好きな人は、名前に「め」がつく女の子?


 うちのクラスだと「めぐみちゃん」と「めいちゃん」。

 ふたりとも、ヨウちゃんのファンだけど、アイドルのコンサートの話でもりあがったりもしてる。

 だから、なんていうか。ヨウちゃんにすごく遠くはないけど、すごく近くもない、みたいな。


「おはよ。どうしたんだよ、綾。むずかしい顔して」


 真央ちゃんがあたしの席にやってきた。


 真央ちゃんは、オトコ言葉をつかうし、タイトなミニスカートから、むちむちの太ももをでーんとのぞかせてても、気にしないほどのオトコマエ。

 だけど、ふわふわ天然パーマのボブ頭と、大福みたいなふくふくほっぺは、すごく女の子だと思う。


「あのね、今、『め』が頭につく言葉をさがしてるの」


「なになに? しりとりか? め、メダカ? めんつゆ? メタボ?」


 う~ん。ぜんぜんちがう……。


 頭を抱え込んでたら、教室に入ってくるヨウちゃんが見えた。ほかの子たちより、頭ひとつ分、背が高い。琥珀色の髪、きょうもめだってる。

 ヨウちゃんと話しながら入ってくる女子を見て、「あれ?」って思った。


 黒縁メガネに、ふたつにわけて胸のところでたらした黒い髪。有香ちゃん。


 有香ちゃんがヨウちゃんとふたりきりで話してるところなんて、はじめて見た。

 ヨウちゃんは、学校仕様の冷めた目で、ジーンズの後ろポケットに両手をつっこんで。

 有香ちゃんは、バレエ仕込みの背すじを、しゃんとのばして。

 ぼそぼそ、ぼそぼそ、マジメな顔つき。


 教室がにぎやかすぎて、窓ぎわのあたしの席にまで、ふたりの声はとどかない。


 あ……今、有香ちゃんが、ニコって笑った。


 いつもは、ヨウちゃんを見ただけで、親の仇みたいににらみつけるのに。

「じゃ」って、右手をあげて。ヨウちゃんが、自分の席に歩き出す。


「おはよう。ふたりとも」


 有香ちゃんは、まっすぐこっちにやってきた。


「めずらしいな、有香が中条と話してるなんて」


 真央ちゃんもきょとん。


「うん……。ちょっと、ね。まぁ、いろいろあって。さすがに、わたしも、あんなこと言われちゃったら……。そう悪い話じゃないなとか、考えちゃってね……」


 有香ちゃん、あごの下に手を置いて、窓のほうを流し見。


 え……? なにそれ……。


「有香ちゃん、ヨウちゃんに、なにか言われたの……?」


 おそるおそるたずねたら、有香ちゃんが、ハッと、あたしを見おろした。


「あ。綾ちゃん、ごめん。たいしたことじゃないから、気にしないで」


 気にするよ~っ!!



 もしかして、「め」って、「メガネをかけた子」の「め」?


 ヨウちゃんの好きな人って、有香ちゃんっ!?





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