《1》記憶の実、ころり 9 - ナイショの妖精さん1
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《1》記憶の実、ころり 9

  25, 2018 20:17
2018091201



 あ……そっか。


 このレンガの建物が、あたしたちの目的地。
 つまりあたしは、くねくねまがる登山道からそれて、花畑を横断して、近道して、ここに出ちゃったってわけ。


「花田市は、太平洋に面してるだろ? 戦争中は、敵が海から侵入してくるかもしれねぇから、見張りのために、浅山に基地をつくったんだよ。一班が調べてる『砲台跡』は、じっさいに、大砲が置いてあった場所。ここは、その大砲でつかう爆薬なんかをしまっていた倉庫」

「さすが、中条君~。くわし~」


 リンちゃん、両手をにぎりあわせて、ほれぼれ。


「まぁ、午前中に教わったことのくり返しだけどな」


 中条、上から目線で、まんざらじゃなさそう。


「……ふ~ん」


「戦争のときにつかわれた」って言われたって、あんまり実感わかないんだよね。

 それにここ、レンガをつんでつくられているから、一見、日本じゃなくて、ヨーロッパの遺跡みたい。


 たとえば、妖精が住んでいそうな……。


「中条君、そろそろ集合場所にもどろ。ここ、なんか肌寒くてオバケ出そう」


 立て札の文をうつし終わったリンちゃんが、自分の肩をさすった。


「だな。これ以上、写真撮るとこもなさそうだし、さっさと引きあげるか」

「え……あの……。でも……」


 あたしまだ、一番奥のアーチの中、見てないんだけど……。


 そっちへ歩きかけたら、「おい、和泉」って低い声で呼ばれた。


「なにしてんだ。行くぞ。これ以上、団体行動を乱すな」


「で、でもっ!」


 中条だって見たはずじゃない! あの中に妖精が入ってくのをっ !!


「でもも、けどもないっ!」


 あたしをにらんでくる、琥珀色の硬い目。
 その目の奥が、一瞬、ふ~ってゆらいで見えた。


 ……あ。なんかストンって、胃に落ちた気分。



「わかった。怖いんだ」



「――は?」

「中条、怖いんでしょ? もし、一番奥の穴のぞいて、もう一度見ちゃったらって思ったら、怖いから、なかったことにしたいんだ?」


「えっ? なになに? もしかして和泉たち、ホントにオバケ見たの~?」


 後ろから、誠がうれしそうに首をつっこんでくる。その誠のおでこを、中条がぺんっとはたいた。


「おまえはだまっとけ。――なんだよ、和泉。ケンカ売ってんの?」


 こめかみを、つっと汗が伝っていく。


 失敗したかもしれない。

 あたし、クラスのボスにかみついてる……?


 だけど、引きさがれない。

 せっかく妖精を見たのに、なかったことにして、このまま帰れない。


「いいよ、中条君。和泉さんは置いて、集合場所にもどろ。待ってたって、待ってなくったって、和泉さんは、どうせ迷子になるんだから」

「いや。オレものこる」


 あたしは「え?」と相手を見あげた。

 中条はジーンズの後ろポケットに両手をつっこんで、リュックの取っ手を片側にだけかけて、リンちゃんたちをふり返ってる。


「班長の責任があるからな。悪いけど、倉橋(くらはし)は誠を連れて、先に行って」

「は~? なんだよ、葉児(ようじ)ぃ~ 。オレものこってオバケ退治したいんだけど~」

「おまえがいると、さらに遅くなりそうなんだよ! おとなしく先行け」


 身長の低い誠の背中をひょいっと前に押し出して。しぶしぶリンちゃんと歩き出した誠を見送って。

 石膏みたいに冷めたほおが、あたしに向き直った。


「――で? なに? 度胸だめし、しろって?」




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