
「……な、なんだ?」
ヨウちゃんも、後ずさり。
「あっ! 中条君、やっと帰ってきた~っ!」
「って、和泉さんもいる~! サイアク。やっぱり、隠れて、中条君につきまとってたんだよっ!! 」
カウンターに座ってるのは、ツインテールの女の子と、眉毛がきりっと太い女の子。
やっぱり、うちのクラスのリンちゃんと青森さんっ!
「ね、ねぇ。ヨウちゃん、どういうこと?」
ヨウちゃんのウインドブレーカーを後ろからつかんだら、「オレだって知らねぇよ」って、耳打ちされた。
「前に、女子たちに、店やってることがバレたって、言ったろ?」
「そ、そうだったっけ?」
「ちょっと、和泉さんっ!! なに中条君に、くっついてんのよっ!! 」
リンちゃんが、イスからおりてくる。ぐいって肩を押されて、あたし、ヨウちゃんから、引きはなされる。
「中条君ちがカフェはじめたこと、ちょっとわたしたちより先に知ったからって、いい気にならないでくれるっ!? ど~せ、お客さんの立場利用して、しょっちゅう中条君の家に入りびたってたんでしょっ! 中条君もお客さんだから、イヤだけど、つきはなせなかったんだ。かっわいそ~。それって、ストーカーと同じじゃん。もうちょっと、人の気持ち考えて行動したら?」
「……ち、ちがうもん……そんなんじゃないもん……」
でも、強く言い返せない。
だって、すでにフラれてるのに、つきまとってるのは、たしかだし……。
「べつに。めいわくはしてねぇけど」
ぼそっと言われたから、びっくりした。
ヨウちゃんを見たら、リンちゃんの横の、カウンターのイスにランドセルをかけて、腰をおろしてた。
「かあさん、オレにもコーヒー」
「はいはい。綾ちゃんは、何にする? せっかく、カワイイお客さんがたくさんきてくれたんだから、おばさん、おごっちゃうわよ。さ。座って、座って。みんな仲良くね」
ヨウちゃんのお母さんが、ぽっくりエクボをつくって、ほほえんでくれた。
白いレースのエプロンに、ゆるいウエーブのかかったミディアムヘア。
トゲトゲした店内の空気が、お母さんのかわいらしい笑顔でやわらかくなる。
「あ、あの。じゃあ、あたしはココアをください!」
リンちゃんたちから隠れるみたいに、あたしもヨウちゃんの向こうのハイチェアによじのぼった。
「中条くぅん、きいてぇ~!」
ネコがあまえるみたい。リンちゃんの腕が、スルッと動いて、ヨウちゃんの左腕にからみつく。
イヤ~っ! ヨウちゃんにさわんないで~っ!!
さけんじゃいたいけど。さけべない。
だって、そこはさ。あたし、カノジョじゃないもん。ただの、友だち。
って言うか、ストーカーすれすれ……。
「紀伊美(きいみ)ってば、カレシができたんだよ~っ!! 塾でいっしょになった人なんだって~。話したらもりあがっちゃって。で、紀伊美、その人から告白されて。ねっ!」
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