《1》 好きな人の、好きな人4 - ナイショの妖精さん3
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《1》 好きな人の、好きな人4

  29, 2021 21:21
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「……ねぇ、ヨウちゃん。なんか怒ってる?」


 ランドセルをカタカタとゆらしながら、あたしは高台へ続く坂道をのぼってく。


「べつに。怒ってねぇよ」


 あたしの五メートル先を行く、ヨウちゃんの黒いウインドブレーカーと、片肩にかけたランドセル。

 放課後。あたしはヨウちゃんちに寄り道予定。

 なのに、五時間目に劇の役が決まってから、ヨウちゃん、目も合わせてくれない。



「……綾(あや)。おまえさ。前、誠に告白されたんだったよな」


 グレーのランドセルがカタっとゆれて、ヨウちゃんが肩越しにあたしを見た。


「……へ? あ……うん。ことわっちゃったけど……」


 なんでそんなこと、今さら言い出すんだろ?

 卒業キャンプに行く前の話だよ?


「……あいかわらず、誠と仲いいんだな」


 そうかな?

 でも、それは誠が「友だち」って言ってくれたから。


「誠ってさ、なんかあたしと感覚が似てて、遊ぶと楽しいんだ」


 えへへって笑ったら、「……ふ~ん」ってヨウちゃん、冷めた声。また、手をジーンズの後ろポケットにつっこんで、スタスタ坂をのぼっていく。


 なによ。興味ないなら、わざわざ、きく必要ないじゃん。


「……告白なら、あたしだって、ヨウちゃんにしたんだけどな……」


 きこえないように、口の中でつぶやいてみる。


 しかも二回も。

 一度目はギッタギタにフラれちゃって。二度目なんか、スルー。

 それでもめげずに、友だち関係を続けてるあたしだって、われながら、誠に負けず、スゴイと思う。


 高台をのぼると、白い横板壁の家が見えてきた。屋根の上には風見鶏。

 絵本の世界に迷い込んだみたいな、このメルヘンなおうちが、ヨウちゃんち。

 夏の終わりごろ、ヨウちゃんのお母さんが、自宅カフェ「つむじ風」をオープンさせた。

 なのに、ヨウちゃんてば、「家におしかけられると、めんどうだから」って理由で、クラスメイトたちに、お店のことを教えてない。

 あたしだけ知っちゃったのは、ヨウちゃんにとっては事故みたいなものだろうけど。

 お店のことは、あたしとヨウちゃんだけのナイショ。


 生垣を越えて、ハーブのお庭を歩いていく。イングリッシュガーデンみたいに、いろんな種類の葉っぱが植わってる。もう十一月だから、花は終わっちゃった。


 モスグリーンの葉っぱたちを見たら、ヨウちゃんのほっぺた、ちょっとゆるんだ。

 少し歩いて立ちどまったり。しゃがみこんで、枯れた葉をつんだり。


 あ……大事にしてるんだ……。


 秋口から、ここのハーブはヨウちゃんが育ててる。


「ぷぷ。ガーデニング男子~」


「……なんだよ。いいだろ、べつに」


 ほっぺたを赤く染めて、ヨウちゃん、ぷいってそっぽ向いた。


 う……。カワイイ……。


 教室でふんぞり返っているのは、ただカッコつけて、クールきどってるだけ。

 ヨウちゃんって、照れると、すぐに顔に出ちゃう。


 玄関のドアを開けると、自宅カフェ「つむじ風」の、「営業中」ってプレートが、プラプラゆれた。

 ヨーロッパの田舎の家みたいな内装。ふいごの置いてある薪ストーブに、壁からぶらさがるドライハーブ。

 中から、女子たちのはしゃぎ声がきこえてきた。


 わ……。ヤな予感……。





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