《1》 好きな人の、好きな人1 - ナイショの妖精さん3
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《1》 好きな人の、好きな人1

  26, 2021 23:27
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 あたしには、ナイショにしていることがある。

 クラスで一番人気の、イケメンくんの素顔。




◆   ◆   ◆



「それじゃあ、今年のクリスマス会の劇は、ピーターパンで決まりです」


 学級委員の有香(ありか)ちゃんが、黒板の前で、黒縁メガネを鼻の上に押しあげた。

 ふたつにわけて胸でたらした、真っ黒いつやつやの髪。すらっと背が高くて、細い腰。

 親友の有香ちゃんは、頭がよくって、お裁縫も料理もなんでもできる。

 アホっ子で、なにをやっても、うまくできないあたしとは正反対。


「じゃ~、ピーターパン役は、中条(なかじょう)君にして~っ!」


 教室から黄色い声がとんできた。ツインテールに猫目がカワイイ、リンちゃん。

 つられてほかの女子たちも「中条君」「中条君」って大合唱。


 あ~あ。

 きょうもヨウちゃん人気、炸裂中。


 窓ぎわの前から二番目の席に座って、そっと後ろをふり返ったら、真ん中の一番後ろの席で、ヨウちゃんがひとごとみたいに、しらっとほおづえをついていた。

 さらっさらの琥珀色の髪。

 トレーナーを着ている肩幅は広くって。胸は平たくって。つくえの下で組んでいるジーンズの足は、長くって。

 なんか、六年生の教室に、おとなの男の人がまじっちゃいましたって、感じ。

 のどぼとけまで、しっかり出ちゃってさ。声がわりをすませてるし。


 ヨウちゃんは、クラスの女子たちの、あこがれの的。

 鼻筋が通ってて。あごがしゅっと細くって。ほっぺたは石膏みたいに白くって。

 ヨウちゃんの亡くなったお父さんはイギリス人。お母さんは日本人だから、ヨウちゃんはハーフ。


 ビビリでヘタレなくせにさ。

 ムダにイケメンなんだから。

 

 で。五時間目の学級会で、なにを話し合ってるのかって、いうと。

 来月の十九日にひかえた、クリスマス会の出し物について。

 クリスマス会では体育館にあつまって、各学年ごとに、クリスマスソングを歌ったり、ハンドベルを演奏したりするんだけど。

 そこで、六年生は劇をするっていうのが、なぜだか、毎年の恒例。

 でも、花田市立小学校は田舎のちっさい小学校だから、六年生って、この一クラスだけ。

 つまりここに座ってる二十三人で、役者も大道具も小道具も衣装係も、脚本も監督もぜんぶやらなきゃならないんだ。


「ウエンディ役は、わたしね!」


 リンちゃんがつづけて、「はいはい~」って、手をあげた。

 そしたら、ほかの女子たちまで、「わたし~」「わたしがやりたい~」って、大騒ぎ。


 うるさいなぁ、もう!

 ど~せ、みんな、ヨウちゃんと劇の中で、イチャイチャしたいだけでしょ。


 ……イチャイチャ……かぁ。


 両腕でほおづえをついて、あたし、ぼんやり窓の外を見た。

 うす曇りで、寒い五時間目の空。

 住宅街の向こうには、浅山のなだらかな山並みが見える。木々の葉っぱは茶色かったり赤かったり。枝は、ガザガザのタワシみたい。


 ピーターパンのイチャイチャシーンって言ったらさ……。

 ヨウちゃんと手をつないで、空を飛んだり。フック船長から、あたしを守るために、ヨウちゃんが戦ったり。最後には、抱きあっちゃったりして……。


 ウエンディ役、やりたいかもっ!!


 またふり返ったら、バッチリ、ヨウちゃんと目が合っちゃった。

 透けるようにキレイな琥珀色の目。無表情のまんま。声を出さないで、口だけ動かして。「やらね~」。

 それだけのことなのに、カ~って、熱くなってくるあたしのほっぺた。

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