《1》記憶の実、ころり 8 - ナイショの妖精さん1
fc2ブログ

《1》記憶の実、ころり 8

  24, 2018 21:47
2018091201




   2


 何分走ったんだろう。


花畑の中に、赤茶けたレンガ造りの壁が見えてきた。

レンガはうっすら、土をかぶっていて、はじが半分くずれ落ちている。
 花畑にうずもれた地面に接して、アーチ状の入り口がならんでいる。
ひとつ、ふたつ、三つ、四つ……。

 一番奥の穴で、光がチカンと反射した。

 銀色のトンボの羽が、赤紫色の花を持って、穴の暗がりに入っていく。


 あの中……っ!


 追いかけようとしたとき、ザワザワと物音が近づいてきた。


「あれ~? 和泉じゃん! どうして、こんなとこから出てくんだよ~?」


 壁の後ろから、ひょこっと顔をのぞかせたのは、誠。あいかわらず、つかいもしない木の棒を、釣りざおみたいにかついでる。


「ちょっと、和泉さんっ  なんで、そっちから来るのよ? 中条くんは?」


 耳にさわるキンキン声は、リンちゃん。


 ……ほぇ?


 あたし、アホ毛をゆらして、きょとん。

 なんか一気に、現実にもどされたって感じ。


 ふたりが出てきたところをよく見てみたら、レンガの壁の裏に登山道が通じていた。
 レンガの横には、真新しい立て札が立てられている。

「第二砲弾倉庫跡」って横書きされた大きな字。その下に細かい説明がごちゃごちゃ。


「和泉さんがあんまりトロいから、中条くん、しかたなく、あんたのようすを見に、道をもどったんだよ。会ってないの?」


 リンちゃんにつめよられて、たじたじしてたら、「あ~、こっちこっち」と声がした。

中条が、のしのし花畑を歩いてくる。目は、めんどくさそうに半開きで。片手をダルそうにあげて。
いつもとかわらない、冷えびえ感。

背中に汗をいっぱい流して、ほっぺたがほてった、あたしとは大ちがい。


「和泉のヤツ、横着して、山道歩かねぇで、この花畑つっきって、ここに来るつもりだったんだよ。ったく、花の葉は痛ぇし、ヒドイ目にあった。―で。オレたち三班は、この砲弾倉庫跡について調べりゃい~んだな?」


 中条は、両手を腰にあてて、もうレンガの建物を見あげてる。


 え……? ほうだんそうこ?


 みんなの興味も建物にうつってた。

 立て札の内容をノートにメモしはじめる、リンちゃん。ポケットからデジカメを出して、写真を撮る中条。誠は、まじまじとレンガの壁を観察してる。


 こんな建物になんの用?

 そうだ。今のうちに、あの妖精が入っていったところを、見に行ってこよっと。


 そそくさと、みんなの後ろを歩き出したら。
「和泉さん~?」って、リンちゃんに呼びとめられた。


「ひとりで班活動サボんないで。せめて、ここの全体図、描き出すとかして」

「えっと? あれ? なんで?」

「『なんで?』じゃないでしょっ  わたしたち三班が調べるのは、このレンガの遺跡! 第二次世界大戦でつかわれた砲弾倉庫跡なのっ!」



次のページに進む

前のページへ戻る



にほんブログ村


児童文学ランキング


スポンサーサイト



Comment 0

What's new?