
2
何分走ったんだろう。
花畑の中に、赤茶けたレンガ造りの壁が見えてきた。
レンガはうっすら、土をかぶっていて、はじが半分くずれ落ちている。
花畑にうずもれた地面に接して、アーチ状の入り口がならんでいる。
ひとつ、ふたつ、三つ、四つ……。
一番奥の穴で、光がチカンと反射した。
銀色のトンボの羽が、赤紫色の花を持って、穴の暗がりに入っていく。
あの中……っ!
追いかけようとしたとき、ザワザワと物音が近づいてきた。
「あれ~? 和泉じゃん! どうして、こんなとこから出てくんだよ~?」
壁の後ろから、ひょこっと顔をのぞかせたのは、誠。あいかわらず、つかいもしない木の棒を、釣りざおみたいにかついでる。
「ちょっと、和泉さんっ なんで、そっちから来るのよ? 中条くんは?」
耳にさわるキンキン声は、リンちゃん。
……ほぇ?
あたし、アホ毛をゆらして、きょとん。
なんか一気に、現実にもどされたって感じ。
ふたりが出てきたところをよく見てみたら、レンガの壁の裏に登山道が通じていた。
レンガの横には、真新しい立て札が立てられている。
「第二砲弾倉庫跡」って横書きされた大きな字。その下に細かい説明がごちゃごちゃ。
「和泉さんがあんまりトロいから、中条くん、しかたなく、あんたのようすを見に、道をもどったんだよ。会ってないの?」
リンちゃんにつめよられて、たじたじしてたら、「あ~、こっちこっち」と声がした。
中条が、のしのし花畑を歩いてくる。目は、めんどくさそうに半開きで。片手をダルそうにあげて。
いつもとかわらない、冷えびえ感。
背中に汗をいっぱい流して、ほっぺたがほてった、あたしとは大ちがい。
「和泉のヤツ、横着して、山道歩かねぇで、この花畑つっきって、ここに来るつもりだったんだよ。ったく、花の葉は痛ぇし、ヒドイ目にあった。―で。オレたち三班は、この砲弾倉庫跡について調べりゃい~んだな?」
中条は、両手を腰にあてて、もうレンガの建物を見あげてる。
え……? ほうだんそうこ?
みんなの興味も建物にうつってた。
立て札の内容をノートにメモしはじめる、リンちゃん。ポケットからデジカメを出して、写真を撮る中条。誠は、まじまじとレンガの壁を観察してる。
こんな建物になんの用?
そうだ。今のうちに、あの妖精が入っていったところを、見に行ってこよっと。
そそくさと、みんなの後ろを歩き出したら。
「和泉さん~?」って、リンちゃんに呼びとめられた。
「ひとりで班活動サボんないで。せめて、ここの全体図、描き出すとかして」
「えっと? あれ? なんで?」
「『なんで?』じゃないでしょっ わたしたち三班が調べるのは、このレンガの遺跡! 第二次世界大戦でつかわれた砲弾倉庫跡なのっ!」
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