《1》記憶の実、ころり 7 - ナイショの妖精さん1
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《1》記憶の実、ころり 7

  23, 2018 20:10
2018091201




「近道したいからって、こんな野っ原、つっきろうとすることねぇだろ? 人のペースを考えないで、先に行ったのは悪かったよ」


 空気に消え入りそうな声。


 ……あれ?

 この人って、こういう人だったっけ……?


 つっと、右手首の上をトンボの羽が横ぎった。


「あっ!」


 あたしはとっさに、中条の手をふりほどいた。


「妖精っ!」


 声に出してから、「しまった」って思った。


 どうしよう……。


 この人、性格悪いから、クラス中に言いふらすに決まってる。
 あたし、アホっ子でドンくさいの上に、「妖精を信じてるイタイ子」のレッテルまで貼られちゃう。


 だけど、じゃあ、目の前にいるコレはなに?


 赤紫色の花の先に、ツツジの雌しべみたいな足をのせて。バレリーナみたいな白いふんわり衣装をまとった小さな人。

 歳はあたしと同じくらいかな。金髪を頭の上でくるりとまとめて。綿毛の髪飾りをつけて。青いつりあがり型の寄り目。つんとした鼻。小さなピンクのくちびる。

 銀色のトンボの羽が、背中でパタパタとはばたいている。


 現実……?


 あたしは、そっと小さな人のほうに、人さし指をのばした。


 さわれたら、現実……だよね?




「や、やめろっ!」


 横から、パシッと手をつかまれる。


「……え?」


 見あげたら、中条の視線は、あたしが手をのばそうとしたほうに向いていた。
 石膏みたいな横顔が、いつもよりも青白い。あたしの腕をつかむ硬い腕が、カタカタ小さく震えてる。


 中条にも……見えてる……?


「……と、飛んでく」


 かすれた声に、あたしはまた花のほうを見た。

 さっきまでいた妖精がいない。

 花畑の先に目をこらしたら、トンボの羽が見えた。赤紫色の花を一輪持って、空を遠ざかっていく。


「行っちゃうっ!」


 あたしは大またで追いかけ出した。


「おい、和泉っ!」


 背中で中条の足音が近づいてくる。


「追ってどうすんだよっ!? 」


「だってっ!」


 縄みたいな花の茎に、足をとられて、何度も転びそうになる。
 でもすぐに、顔を起こして、走りだす。


 妖精はいるっ!

 本当にいるんだっ!


 心臓がピストンみたいにふくらんでしぼんで、ピンク色の希望を、胸に手に足に行きわたらせる。


 やっぱり、あの記憶は、ただの夢じゃないっ!






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