《5》 決戦は卒業キャンプで 14 - ナイショの妖精さん2
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《5》 決戦は卒業キャンプで 14

  15, 2019 21:52
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 ヨウちゃんの手にかける自分の右手に、きゅっと力を込めてみる。


「早く好きな人と踊りたいなって思いながら、ひとり踊って、ふたり踊って。やっと順番がまわってきたと思っても、好きな人と踊れるのなんて、ほんの一瞬でさ。すぐに別れて、お互い、別の人のところに行っちゃう。それって、なんだか、せつないよ……」


 ヨウちゃんが右手を高くあげた。

 つられてあたしの右手も高くあがって、あたしはくるっと一回転。

 で、ふたり向かい合って、おじぎして。


 ほら、もう、手をはなさなきゃ。


 ぐっと右手を強くにぎられた。


「――え?」



 後ろで、誠が順番を待ってるんだけど。

 手をはなしてくれなきゃ、誠のところに行けないよ。


「……ヨウちゃん?」


「お~い、葉児ぃ?」


 あたしたちの後ろから、誠も、眉をひそめてのぞきこんでくる。

 だけど、ヨウちゃんは右手を引いて、自分の胸に、あたしの胸を引き寄せた。


「わっ!?  えっ? なにっ!? 」


「ヤダ。綾はわたさない」


 えええええ~っ!?

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「ちょ、ちょっと、ヨウちゃんっ!?  な、なに言っちゃってんのっ!? 」


 誠、口、ぱっく~。

 リンちゃんと青森さん、顔真っ赤にしてぎゃ~ぎゃ~。

 真央ちゃんは「おおおお~」って、山田の肩をバシバシたたいて。

 有香ちゃんはメガネのレンズを、キャンプファイヤーの炎に照らして「ふ~ん」。


 ヨウちゃんに右手をとられて、あたし、くるくる回ってコマみたい。


「待ってよ。勝手なことして、また先生に怒られちゃう! この踊り、もう、オクラホマ・ミキサーでも、なんでもないし~」


「いいじゃねぇか。踊り方なんかど~でも」


 見あげたら、ヨウちゃん、人事みたいにケラケラ笑ってた。


「せんせーい! 葉児が、また暴走~っ!! 」

「てか、おまえらやっぱ、デキてんの~っ!? 」

「ヤダ~っ! 中条君、和泉さんの手をはなして~っ!! 」


「あ~もう。いったいなにがど~なってんだっ!?  しょ~がねぇなぁっ!!  どーせ、卒業キャンプの、ラストだっ! おまえらの好き勝手に踊れ~っ !!」


 わぁ! 先生、投げ出したっ!


 ついでに曲までかえちゃって、アップテンポのダンスミュージック!


「え~っ!? 」ってさけびながらも、みんなもてきとうに踊りだす。

 なんか、ぐちゃぐちゃ。ロボットダンスしてる男子がいるし。ラッパーみたいなのもいるし。リンちゃんたち、やけっぱちで、アイドルグループの真似してるし。


「……こ、こんなのアリ……?」



「綾、踊りたいように踊れよ」


 ドキっとして、顔をあげると、目の前にヨウちゃんの顔があった。

 ふんわりあたたかな琥珀色の瞳。キャンプファイヤーの炎に照らされるほっぺた、ピンク色。


「おまえ、型にはめられるのがイヤなんだろ? オレがぜんぶ、合わせてやるから」



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