
ヨウちゃんの手にかける自分の右手に、きゅっと力を込めてみる。
「早く好きな人と踊りたいなって思いながら、ひとり踊って、ふたり踊って。やっと順番がまわってきたと思っても、好きな人と踊れるのなんて、ほんの一瞬でさ。すぐに別れて、お互い、別の人のところに行っちゃう。それって、なんだか、せつないよ……」
ヨウちゃんが右手を高くあげた。
つられてあたしの右手も高くあがって、あたしはくるっと一回転。
で、ふたり向かい合って、おじぎして。
ほら、もう、手をはなさなきゃ。
ぐっと右手を強くにぎられた。
「――え?」
後ろで、誠が順番を待ってるんだけど。
手をはなしてくれなきゃ、誠のところに行けないよ。
「……ヨウちゃん?」
「お~い、葉児ぃ?」
あたしたちの後ろから、誠も、眉をひそめてのぞきこんでくる。
だけど、ヨウちゃんは右手を引いて、自分の胸に、あたしの胸を引き寄せた。
「わっ!? えっ? なにっ!? 」
「ヤダ。綾はわたさない」
えええええ~っ!?

「ちょ、ちょっと、ヨウちゃんっ!? な、なに言っちゃってんのっ!? 」
誠、口、ぱっく~。
リンちゃんと青森さん、顔真っ赤にしてぎゃ~ぎゃ~。
真央ちゃんは「おおおお~」って、山田の肩をバシバシたたいて。
有香ちゃんはメガネのレンズを、キャンプファイヤーの炎に照らして「ふ~ん」。
ヨウちゃんに右手をとられて、あたし、くるくる回ってコマみたい。
「待ってよ。勝手なことして、また先生に怒られちゃう! この踊り、もう、オクラホマ・ミキサーでも、なんでもないし~」
「いいじゃねぇか。踊り方なんかど~でも」
見あげたら、ヨウちゃん、人事みたいにケラケラ笑ってた。
「せんせーい! 葉児が、また暴走~っ!! 」
「てか、おまえらやっぱ、デキてんの~っ!? 」
「ヤダ~っ! 中条君、和泉さんの手をはなして~っ!! 」
「あ~もう。いったいなにがど~なってんだっ!? しょ~がねぇなぁっ!! どーせ、卒業キャンプの、ラストだっ! おまえらの好き勝手に踊れ~っ !!」
わぁ! 先生、投げ出したっ!
ついでに曲までかえちゃって、アップテンポのダンスミュージック!
「え~っ!? 」ってさけびながらも、みんなもてきとうに踊りだす。
なんか、ぐちゃぐちゃ。ロボットダンスしてる男子がいるし。ラッパーみたいなのもいるし。リンちゃんたち、やけっぱちで、アイドルグループの真似してるし。
「……こ、こんなのアリ……?」
「綾、踊りたいように踊れよ」
ドキっとして、顔をあげると、目の前にヨウちゃんの顔があった。
ふんわりあたたかな琥珀色の瞳。キャンプファイヤーの炎に照らされるほっぺた、ピンク色。
「おまえ、型にはめられるのがイヤなんだろ? オレがぜんぶ、合わせてやるから」
次のページに進む
前のページへ戻る

にほんブログ村

児童文学ランキング
スポンサーサイト