《5》 決戦は卒業キャンプで 13 - ナイショの妖精さん2
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《5》 決戦は卒業キャンプで 13

  30, 2019 16:27
2019032703



* * *


「こぉら、おまえらふたり、いったいどこで遊んでたっ!? 」


 キャンプ場にもどって、まず最初に先生に言われたのが、コレ。


「みんな、とっくにもどってきて、キャンプファイヤーの準備してんだぞ! 一番先に、きもだめしに出たおまえらが、一番最後になるって、ど~ゆ~ことだっ! しかも、目的地でのスタンプさえ、押してきてないじゃねぇかっ!! 」


 ……う~、マズイ。

 あたし、言い訳、な~んも考えてなかったよ……。


 あたしたちの前に立ちふさがった大河原先生の前で、あたしとヨウちゃん、ならんで気をつけ。

 横目でとなりを見あげたら、ヨウちゃん、ふ~っと右のほうを流し見してる。


 わ~。こっちも、あとのことなんか、さっぱり考えてなかったっぽい。


 でも、しょうがないよね。

 無事にもどってこれるかさえ、わかんない戦いだったんだから。


 って、先生に説明したって、「よくがんばってきた」なんて言われるわけないし。


「あの、先生。あたし、きもだめしのとちゅうで、怖くなっちゃって。ひとりで走って、逃げちゃったんです。そしたら、迷子になっちゃって。ヨウちゃ……中条君は、今までずっと、あたしをさがしてくれてたんです」


「……え?」


 ヨウちゃんが、まばたきして、あたしを見おろした。

 だけど、先生の顔は、とたんにほがらか。


「なんだ~? なにやってんだ、和泉は~。おまえはどこに行っても、アホっ子だな~。そうか、中条。それは、たいへんだったな。ふたりとも、行っていいぞ。そろそろ、フォークダンスがはじまる時間だ」


「は~い。すみませんでした」


 ぺこっと頭をさげて、歩き出したら、後ろからヨウちゃんが「おい、綾」って追いかけてきた。


「なんだよ、さっきのウソ」


「いいじゃん~。先生が許してくれたんだから」


「けど、そんな……オレをかばうことないだろ?」


「まあまあ。たまには、役にたたせてよ」


 あたしは、ポンッとヨウちゃんの肩をたたいた。


 キャンプファイヤーの炎が、赤く天へのぼっていく。

 その上に広がるのは満天の星空。

 子どもたちが輪になって、もう男女に組んでならんでる。


 あたしはヨウちゃんと別れて、自分の列へ歩いていった。




 底抜けに明るい音楽が、夜空の中に流れてる。

 曲だけきいていると、春ののどかな昼下がり。

 バチバチあがるたき火の炎に照らされて、あたしの手をにぎる男子たちの顔は、どの子もみんな、いつもよりも緊張気味。

 曲に合わせて。足を、右に出して。左に出して。くるっと回って、おじぎして。

 フォークダンスのステップを踏む、足は軽い。


「和泉って、あんなにうまかったっけ?」


 なんて声まできこえてくるから、ちょっと鼻が高いかも。

 にぎった右手を上にあげて、大岩と向かい合っておじぎして。

 その手をはなしたら。


 後ろから大きな手のひらがのびてきて、すっと、あたしの右手を包んだ。


 あ……この手、知ってる。


 顔をあげたら、琥珀色の瞳が笑ってた。


「……綾、オクラホマ・ミキサー、ちゃんと踊れるようになったじゃねぇか」


 右足をあたしといっしょに前に出しながら、ヨウちゃんがあたしの耳元にささやく。


「……うん。でも、あたし、このダンス好きじゃないな」


「え……?」


「だって、片想いみたいなんだもん」



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