
* * *
「こぉら、おまえらふたり、いったいどこで遊んでたっ!? 」
キャンプ場にもどって、まず最初に先生に言われたのが、コレ。
「みんな、とっくにもどってきて、キャンプファイヤーの準備してんだぞ! 一番先に、きもだめしに出たおまえらが、一番最後になるって、ど~ゆ~ことだっ! しかも、目的地でのスタンプさえ、押してきてないじゃねぇかっ!! 」
……う~、マズイ。
あたし、言い訳、な~んも考えてなかったよ……。
あたしたちの前に立ちふさがった大河原先生の前で、あたしとヨウちゃん、ならんで気をつけ。
横目でとなりを見あげたら、ヨウちゃん、ふ~っと右のほうを流し見してる。
わ~。こっちも、あとのことなんか、さっぱり考えてなかったっぽい。
でも、しょうがないよね。
無事にもどってこれるかさえ、わかんない戦いだったんだから。
って、先生に説明したって、「よくがんばってきた」なんて言われるわけないし。
「あの、先生。あたし、きもだめしのとちゅうで、怖くなっちゃって。ひとりで走って、逃げちゃったんです。そしたら、迷子になっちゃって。ヨウちゃ……中条君は、今までずっと、あたしをさがしてくれてたんです」
「……え?」
ヨウちゃんが、まばたきして、あたしを見おろした。
だけど、先生の顔は、とたんにほがらか。
「なんだ~? なにやってんだ、和泉は~。おまえはどこに行っても、アホっ子だな~。そうか、中条。それは、たいへんだったな。ふたりとも、行っていいぞ。そろそろ、フォークダンスがはじまる時間だ」
「は~い。すみませんでした」
ぺこっと頭をさげて、歩き出したら、後ろからヨウちゃんが「おい、綾」って追いかけてきた。
「なんだよ、さっきのウソ」
「いいじゃん~。先生が許してくれたんだから」
「けど、そんな……オレをかばうことないだろ?」
「まあまあ。たまには、役にたたせてよ」
あたしは、ポンッとヨウちゃんの肩をたたいた。
キャンプファイヤーの炎が、赤く天へのぼっていく。
その上に広がるのは満天の星空。
子どもたちが輪になって、もう男女に組んでならんでる。
あたしはヨウちゃんと別れて、自分の列へ歩いていった。
底抜けに明るい音楽が、夜空の中に流れてる。
曲だけきいていると、春ののどかな昼下がり。
バチバチあがるたき火の炎に照らされて、あたしの手をにぎる男子たちの顔は、どの子もみんな、いつもよりも緊張気味。
曲に合わせて。足を、右に出して。左に出して。くるっと回って、おじぎして。
フォークダンスのステップを踏む、足は軽い。
「和泉って、あんなにうまかったっけ?」
なんて声まできこえてくるから、ちょっと鼻が高いかも。
にぎった右手を上にあげて、大岩と向かい合っておじぎして。
その手をはなしたら。
後ろから大きな手のひらがのびてきて、すっと、あたしの右手を包んだ。
あ……この手、知ってる。
顔をあげたら、琥珀色の瞳が笑ってた。
「……綾、オクラホマ・ミキサー、ちゃんと踊れるようになったじゃねぇか」
右足をあたしといっしょに前に出しながら、ヨウちゃんがあたしの耳元にささやく。
「……うん。でも、あたし、このダンス好きじゃないな」
「え……?」
「だって、片想いみたいなんだもん」
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