《5》 決戦は卒業キャンプで 12 - ナイショの妖精さん2
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《5》 決戦は卒業キャンプで 12

  16, 2019 16:23
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「……よかった。治って……」


 銀色の光の中を飛びかうのは、背中にトンボの羽をはやした、手のひらサイズの小さな子たち。


「……ああ」


 ほおに銀色の光を反射させて、ヨウちゃんも部屋の中をあおいでる。


 あれ? こんなにいっぱい妖精がいるのに、ヨウちゃん、妖精のこと怖くない?


 あたしのあげた、サシェのせい?

 それとも、自力で克服したのかな?


「ねぇ、ヨウちゃん……。妖精にとってヨウちゃんのお父さんって、どんな人だったんだろう?」


 最後の羽を治して、はばたいた子を目で追いながら、あたし、つぶやいた。


「あたしね。はじめ、ヨウちゃんのお父さんは、妖精の面倒をみてくれるやさしい人だと思ってた。でも、それだけじゃなかった。

たとえ悪気はなかったとしても、お父さんはヒメのタマゴをうばっちゃったんだ。だから、ヒメは怒って、その感情でタマゴは黒いタマゴにかわっちゃった。あたしにくれた白いタマゴだってさ。妖精から、うばったものかもしれないんだよね」


 ヒメが、ヨウちゃんの鼻の先を飛んでいく。

 さっき、ヨウちゃんがヒメの針を抜いて、羽に葉をあてて治すのを、ヒメはずっと見つめていた。


「人間ってのは、いいこともするけど、まちがいもするからな」


 片ひざ立てて、ゆかに座って、ヨウちゃんてばエラそう。


「とうさんは、妖精の傷を治したけど、タマゴを勝手に日本に持ち込んだ。それだって、いいことだったのか、悪いことだったのか……」


「あ、あたしもね。自分がまさか、あんな針をこの子たちに投げるなんて思わなかった」

「綾。それは、気にすんな。ゴースの針をわたしたのは、オレだから」


「ううん。投げたのは、あたしだよ。あたしがあんなことしなければ、この子たちは痛い思いをしないで、すんだのに……」


 今、チチとヒメはどんな気持ちで、宙を舞っているんだろう。


「ヨウちゃんのお父さんだけじゃない。あたしだって、すぐに大きなまちがいをする。なんかさ、自分で自分が怖くなる」


「……けど、今、治したじゃねぇか」


 顔を向けたら、となりで、ヨウちゃんは眉をひそめて、笑ってた。


「いや……オレだって。今回のことで、さすがに悔いあらためたんだ。自分が……こんなにひどい人間だとは思わなかった……。綾を傷つけて。傷つけたのは自分のくせに、アホみたいに自分も傷ついて……。ごめん……。けど、それでも、ひとつ、知ったことがある……」


「……知ったこと?」


 ヨウちゃんは、ジーンズの後ろポケットからなにかをとりだした。


 あ……へんなぞうきんみたいな四角い物体。


 ネトルとヤロウのサシェ。


 ヨウちゃんはそのへんな物体を、両手にきゅっと包み込んだ。


「まちがったって気づいたら、やり直したらいいんだ。『ヤバイ、失敗した』ってときは、あわてて立ちもどって、失敗したほころびを直すんだ。とにかく、早く。まだやり直せる余裕があるうちに」



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