《5》 決戦は卒業キャンプで 11 - ナイショの妖精さん2
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《5》 決戦は卒業キャンプで 11

  02, 2019 17:15
2019032703


 ヨウちゃんは、あごまで落ちていた汗を、手の甲でぬぐった。

 それから、また一歩、タマゴに近寄る。


「チチチっ!」


 ヒメがつりあがり型の青い寄り目で、ヨウちゃんをにらみつけた。

 目にうかぶのは、ダイヤモンドのような涙。


 ヒメとヨウちゃんの姿が、ヒメとヨウちゃんのお父さんの姿に重なって見えた。


「よ、ヨウちゃん、お願い。……ヒメのタマゴを取りあげないで」


 あたし、矛盾してる。このタマゴはヨウちゃんを襲った。だからヨウちゃんは、このタマゴを壊すためにここに来た。

 あたしだって、おんなじ気持ちで。


 ヨウちゃんの右手が、容赦なくヒメのところへのびていく。


 取りあげられる!


 ヒメが、きゅっと目と閉じる。


「……ごめんな」


 ヨウちゃんの指先は、ヒメの羽にのびた。羽にささった虹色の針を、そっと引き抜く。

 ヨウちゃんは、ヒメの前にひざまずいた。一本、一本、針をていねいに取りのぞいていく。


「それは、おまえの大事なタマゴだったんだよな。……だけどもう、その中身は消滅している……」


 パコ……。


 ヒメの手の中で、タマゴが力なく砕けた。

 ヒメがハッとした顔で、タマゴを見る。

 まるでウエハースの欠片みたい。タマゴが粉々にくずれていく。


 中から、とろっと黒い液体がこぼれた。


 それだけ。


 液体の中に、あの目も、意志も感じない。



「チチチチチチチ……」


 涙を流して、ヒメがさけんだ。



「キンキンキン」

「チチッチチチチ」


 砲弾倉庫の前で倒れ込んだ妖精たちがいっせいに、泣きさけぶ。

 呪い返しの虹色の光が、だんだん力をなくしていく部屋の中。

 妖精たちの金属音が、むなしくこだまする。



「綾……これをつかえ」


 手のひらに、新しいビンを乗せられた。


「……え?」


 ビンの中を見たら、虹色をした細長い葉が、縦になって何枚も入っている。


「ハナヤスリの葉だ。妖精の羽から針を抜いて、羽にその葉を押しあてろ。傷が治る」


「う、うんっ!」


 ヨウちゃん、ちゃんと、治す薬も用意してくれてたんだ……。



 それから、あたしたちはしゃがみこんで、妖精たちの羽にささった針を抜いていった。

 抜いたあとは、ビンからハナヤスリの葉を出して。湿布みたいに妖精の羽にあてていく。


 ……ごめんね。痛かったよね……。


 この子たちは、もう……あたしを許さない。



 羽が、オーロラみたいな虹色にかがやいた。

 羽に開いた点みたいな針の穴も、かがやきの中に消えていく。

 チラチラ。

 銀色のりんぷんをまきちらして、妖精たちが宙に舞いあがった。

 幼児体型の小さな子。赤いくるくるの髪の男の子。

 ホタルブクロの花をかぶった女の子。


 葉っぱをチチの羽にあてたら、チチの羽もオーロラみたいな虹色に染まった。


「チチッチチチ」

「キンキンキン」


 のんびり明るい金属音。

 呪い返しのあかりが消えて、夜の暗がりにもどった砲弾倉庫が、今度は、妖精たちの銀色のりんぷんで照らされる。

 まるで遊園地のパレードのイルミネーション。



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