《5》 決戦は卒業キャンプで 7 - ナイショの妖精さん2
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《5》 決戦は卒業キャンプで 7

  05, 2019 14:48
2019032703




 ヨウちゃん、だいじょうぶっ!?

 ちゃんと、うまくやれてるっ !?


 おろおろあたりを見まわすあたしの目に、遠く、黒い人影が見えた。


 ……え……?


 ヒースの茂みの奥から、黒い人影が近づいてくる。


 ザク……ザク……。


 体を左右にゆすりながら、茂みの葉を踏んでくる。


 ひとつ、ふたつ、三つ、四つ、五つ……。


 人影の形はちゃんとさだまってない。

 たまに、ノイズが入ったみたいにぼやけて、輪郭が、ふっと、モヤみたいに散ったりする。


 ぞくっと、背すじが凍りついた。


 ……あのとき見た幽霊っ!


 近づくにつれて、黒い影の姿がだんだんとはっきりしてきた。

 あの服、戦争映画で見たことある。兵隊さんが着る軍服。腰についた棒は、もしかしてサーベル? 足には軍ぐつ。頭にはヘルメット。

 顔や手は、みんな真っ黒でわからない。

 でも、ひとりひとりの体つきはそれぞれちがう。

 ごつごつした、筋肉質な肩の人。

 ヨウちゃんみたいに細身で、スラッと長い手足の人。


 もしかして……戦争中に、浅山で亡くなったっていう兵士たち……?


 黒い人影たちは、妖精の輪の前まで来ると立ちどまった。


 五人、十人、二十人……。


 みんな同じように手をぶらんとおろして。肩の力を抜いたまんまで。妖精の輪をかこんでいる。

 その姿が見えてるのか、見えてないのか。妖精たちは踊りをとめない。しなやかな白い細い手足で、くるりくるりとまわり続ける。


 ……ユルセナイ。


 あたしの胸に、だれかの感情が入り込んできた。


 なにこれ……。


 どろどろとぐろを巻く、黒い感情。


 ナゼ、コンナメニ……?


 ナニモ、ワルイコトナド、シテイナイ。


 蛇みたいにあたしのお腹でうねる。


 ドウシテ、ワタシダケ……。


 見る間に、黒い霊の体から、黒いモヤが立ちのぼってきた。

 肩から、頭のてっぺんから、手足から。まるで全身が黒いろうそくの炎になっちゃったみたい。

 あっちでも、こっちでも。霊たちから、黒い炎があがってる。


 な、なんなの? なにがはじまるの~っ?


 モヤは上空に立ちのぼると、一ヶ所にあつまりだした。

 妖精の輪の上空に。

 妖精たちの踊りが速くなる。

 銀色の竜巻のように、ぐるぐる、ぐるぐる天へとうずまく。

 その風を受けて、モヤがブワッ吹きあがった。

 モヤは黒い蛇の姿になり、稲妻のような勢いをつけて、一番奥の砲弾倉庫へ向かっていく。


「よ、ヨウちゃんっ!」


 あたしの金切り声と同時に、奥の入り口に黒い蛇がとびこんだ。



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