
ヨウちゃん、だいじょうぶっ!?
ちゃんと、うまくやれてるっ !?
おろおろあたりを見まわすあたしの目に、遠く、黒い人影が見えた。
……え……?
ヒースの茂みの奥から、黒い人影が近づいてくる。
ザク……ザク……。
体を左右にゆすりながら、茂みの葉を踏んでくる。
ひとつ、ふたつ、三つ、四つ、五つ……。
人影の形はちゃんとさだまってない。
たまに、ノイズが入ったみたいにぼやけて、輪郭が、ふっと、モヤみたいに散ったりする。
ぞくっと、背すじが凍りついた。
……あのとき見た幽霊っ!
近づくにつれて、黒い影の姿がだんだんとはっきりしてきた。
あの服、戦争映画で見たことある。兵隊さんが着る軍服。腰についた棒は、もしかしてサーベル? 足には軍ぐつ。頭にはヘルメット。
顔や手は、みんな真っ黒でわからない。
でも、ひとりひとりの体つきはそれぞれちがう。
ごつごつした、筋肉質な肩の人。
ヨウちゃんみたいに細身で、スラッと長い手足の人。
もしかして……戦争中に、浅山で亡くなったっていう兵士たち……?
黒い人影たちは、妖精の輪の前まで来ると立ちどまった。
五人、十人、二十人……。
みんな同じように手をぶらんとおろして。肩の力を抜いたまんまで。妖精の輪をかこんでいる。
その姿が見えてるのか、見えてないのか。妖精たちは踊りをとめない。しなやかな白い細い手足で、くるりくるりとまわり続ける。
……ユルセナイ。
あたしの胸に、だれかの感情が入り込んできた。
なにこれ……。
どろどろとぐろを巻く、黒い感情。
ナゼ、コンナメニ……?
ナニモ、ワルイコトナド、シテイナイ。
蛇みたいにあたしのお腹でうねる。
ドウシテ、ワタシダケ……。
見る間に、黒い霊の体から、黒いモヤが立ちのぼってきた。
肩から、頭のてっぺんから、手足から。まるで全身が黒いろうそくの炎になっちゃったみたい。
あっちでも、こっちでも。霊たちから、黒い炎があがってる。
な、なんなの? なにがはじまるの~っ?
モヤは上空に立ちのぼると、一ヶ所にあつまりだした。
妖精の輪の上空に。
妖精たちの踊りが速くなる。
銀色の竜巻のように、ぐるぐる、ぐるぐる天へとうずまく。
その風を受けて、モヤがブワッ吹きあがった。
モヤは黒い蛇の姿になり、稲妻のような勢いをつけて、一番奥の砲弾倉庫へ向かっていく。
「よ、ヨウちゃんっ!」
あたしの金切り声と同時に、奥の入り口に黒い蛇がとびこんだ。
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