
ドキン、ドキン。心臓が鳴る。
ヨウちゃんが、あたしの右手をにぎってる。
ぎゅっと強くて、大きな硬い手。
奥からじんじん伝わってくる、熱いぬくもり。
「オレら、一番なんで、先に出ます」
ヨウちゃん、あたしの手を引いて、レクリエーションホールの入り口から、外に走っていく。
「おーい、中条! そんなにあせんな。これから懐中電灯くばって……それから……」
おとなは、なんでも型にはめたがるから。先生はまだ、手順をいっぱい決めていたみたいなのに。
ヨウちゃん、ガン無視。
「中条君、なんで和泉さんの手なんかにぎっちゃってんの~?」
ホールの入り口で、リンちゃんが悲鳴をあげてる。
「ね、ねぇ。ヨウちゃん。せっかくリンちゃんたちと仲直りできたのに、また機嫌悪くされちゃうよ?」
街灯がぽつん、ぽつんとともる、暗いキャンプ場。
あちこちで三角の影をつくるのは、みんなが泊まるバンガローの屋根。
やっと、ゆっくりになったヨウちゃんの歩調。
芝生を踏みしめながら、自分の手を引く先を見たら、ヨウちゃんの口元、ふんわり笑ってた。
わ……キューン。
胸苦しくて、酸欠になりそう。
「いいんだよ。オレ、昼間、『そばにいるのは、自分が必要としてる人間だけでいい』って言ったろ?」
「……え? あ、うん。それは、そう言ってたけど……。だけどさ、こんな……」
「綾っ! おまえ、意味わかれよっ!! 」
「ほぇ」ってアホ毛をゆらして首をかしげたら、ヨウちゃんの顔、耳まで真っ赤っ赤。
……あれ? なんで……?
「……~もういい」
マスクみたいに、右手で顔をおおって。ヨウちゃんの足が遅くなる。
「このまま、砲弾倉庫跡に行って、黒いタマゴを破壊する。でも、オレはビビリでヘタレだから、おまえのサシェくらいじゃ、どうにもならない。綾……おまえもいっしょに来てくれるか?」
「う、うんっ! 行くっ!」
「……そうか」
赤くなった目を何度もまばたきして。ヨウちゃんはポケットからペンライトを取り出して、足元を照らした。
キャンプ場を抜けて、登山道へ。
「べつに……綾を、つきはなしたかったわけじゃない。けど……ほかにどうしたらいいか、わからなくなってた。誠とつきあえば、綾は黒いタマゴと向き合わなくてもすむ。妖精になって、りんぷんをつかうこともない。オレといるより……幸せだって思った……」
どうしよう……。胸、熱い。
あたしの手をにぎるヨウちゃんの左手、力がこもって痛いくらい。
「ねぇ、ヨウちゃん。あたし今、へアベルつかってないよ。そんなに、しゃべっちゃっていいの……?」
「かあさんに……傷つけないやり方をしろって言われたから。そしたら、本音を話す以外にないって気づいた。オレもこれ以上、綾の傷つく顔、見たくない……」
祈るみたいな、かすれ声。
空を見あげたら、満天の星。
あたしの羽のりんぷんみたい。
「ヨウちゃん……おとなの言うことって、重いね。ぜんぶがぜんぶ、こどもよりおとなのほうが正しいわけじゃないけどさ。おとなのほうがたくさん生きてるから、あたしたちの知らない考え方を、教えてくれたりするんだね……」
あたしもママから、たくさん教わってた。
勇気を出して、人に想いを伝えること。
人に「こうしてほしい」じゃなくて、自分の「こうしたい」って気持ちで、動くこと。
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