
誠たちのところに歩いていたら、リンちゃんの肩にぶつかった。リンちゃんてば、野菜の入ったおなべを抱えて、よそ見しながら歩いてくるんだもん。
「あーもう。イッタイなぁ。やめてよ、和泉さん!」
なんか、あたしのほうが悪いみたい。
だけど、あたしは怒りを空に飛ばして。胸に手を置いて、す~は~深呼吸。
「……は? 和泉さん、急になにやってんの?」
「リンちゃん、あのね。今、ヨウちゃんと話してきたんだけど……」
のどから出てきたあたしの声は、いつもより1オクターブは高かった。
「ヨウちゃんもリンちゃんといっしょに、カレーつくりたいんだって」
「……え? で、でも……中条君は……アレでしょ。どうせ、ひとりでいたいんでしょ」
「そんなのカッコつけて、ロンリーきどってるだけに決まってるじゃんっ! ホントは前みたいに、リンちゃんたちに、しゃべりかけてもらいたいんだけどさ。ヘタレだから、自分で言い出す勇気がないんだよ」
「ええ~っ!? そうなの~っ!? やだぁ~っ! 中条君ってばっ!! わたしたちは、ぜんぜんオッケーなのにぃ~っ!! 」
リンちゃんの目、ハートマーク。
リンちゃんが、ほかの女子たちに、キャッキャッて話したら、青森さんたちまで、目、ハートマーク。
「中条くぅ~んっ!! 」
あっという間に、ヨウちゃん、女子たちの輪にかこまれちゃった。
「……え?」とか「は?」とか目をしぱしぱさせてるけど、アレ、ほっとこ。
外でフクロウが鳴いている。
暗く電気を落としたキャンプ場のレクリエーションホールの中に、ひんやり夜の空気がしのび込んで来る。
六年生、二十三人。身を寄せあって座って。
大河原先生の口から出てくる話に、全神経をとがらせてる。
「……そうしてな。昔、戦争中に、ここの浅山で、たくさんの兵士たちが命を落とした。その中には、いろんな兵士がいた。先生たちのような、おとなの兵士。おまえらより、数歳、年上なだけの、若い兵士。
つらかったろうな……。どんなに家族のもとに帰りたかっただろう。おまえたちと同じように、家に帰って、親のつくった飯を食って、あたたかいふとんで寝たかっただろう。
だが……戦争は残酷だ。亡くなった若い兵士たちは、どんなに泣いてもさけんでも、二度と懐かしい人のもとへは帰れない……」
あたし、真央ちゃんと有香ちゃんの間で、ぎゅっとひざを抱いた。
授業中は、先生が黒板の前に立っていても、なにかとさわがしい、うちのクラス。
なのに、今は、外のフクロウの声がきこえるくらい、全員静まり返っている。
キャンプのレクリエーションのひとつで。これから、きもためし。
まずは、雰囲気づくりに、先生が怪談話をしてくれてるんだけど。それがなかなか物悲しいお話で。
「時代がかわって、浅山にキャンプ場ができた。頂上には芝生の広場ができて、植物園もでき、登山道が整備された。だが、戦争のなごりの砲台跡や、砲弾倉庫跡は、まだ浅山のあちこちに、うずもれている。そして、夜になると……。ザ、ザ、と足音が山道をおりてきて……山の中から、黒い男の影が……」
ガタっと、後ろから音がした。
みんなの心臓、ビックーっ!!
「な、なにっ!? 」
「なんの音っ?」
「へ、へ、兵士の霊っ!? 」
子どもたちの視線が、部屋の後ろにあつまっていく。
その先にいるのは、ヨウちゃん。
「……え? いや、ごめん。たんに足、組みかえただけ」
「は~っ!? なんだよ、葉児~」
大岩が息ついて、ハァ~。
「うわ~っ! オレ、オバケが中に入ってきたのかと思っちゃった~」
誠がおおげさに頭を抱えたから、みんなゲラゲラ。
次のページに進む
前のページへ戻る

にほんブログ村

児童文学ランキング
スポンサーサイト