《5》 決戦は卒業キャンプで 3 - ナイショの妖精さん2
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《5》 決戦は卒業キャンプで 3

  06, 2019 22:55
2019032703



 誠たちのところに歩いていたら、リンちゃんの肩にぶつかった。リンちゃんてば、野菜の入ったおなべを抱えて、よそ見しながら歩いてくるんだもん。


「あーもう。イッタイなぁ。やめてよ、和泉さん!」


 なんか、あたしのほうが悪いみたい。

 だけど、あたしは怒りを空に飛ばして。胸に手を置いて、す~は~深呼吸。


「……は? 和泉さん、急になにやってんの?」


「リンちゃん、あのね。今、ヨウちゃんと話してきたんだけど……」


 のどから出てきたあたしの声は、いつもより1オクターブは高かった。


「ヨウちゃんもリンちゃんといっしょに、カレーつくりたいんだって」


「……え? で、でも……中条君は……アレでしょ。どうせ、ひとりでいたいんでしょ」

「そんなのカッコつけて、ロンリーきどってるだけに決まってるじゃんっ! ホントは前みたいに、リンちゃんたちに、しゃべりかけてもらいたいんだけどさ。ヘタレだから、自分で言い出す勇気がないんだよ」

「ええ~っ!?  そうなの~っ!?  やだぁ~っ! 中条君ってばっ!!  わたしたちは、ぜんぜんオッケーなのにぃ~っ!! 」


 リンちゃんの目、ハートマーク。

 リンちゃんが、ほかの女子たちに、キャッキャッて話したら、青森さんたちまで、目、ハートマーク。


「中条くぅ~んっ!! 」


 あっという間に、ヨウちゃん、女子たちの輪にかこまれちゃった。

「……え?」とか「は?」とか目をしぱしぱさせてるけど、アレ、ほっとこ。






 外でフクロウが鳴いている。

 暗く電気を落としたキャンプ場のレクリエーションホールの中に、ひんやり夜の空気がしのび込んで来る。

 六年生、二十三人。身を寄せあって座って。

 大河原先生の口から出てくる話に、全神経をとがらせてる。


「……そうしてな。昔、戦争中に、ここの浅山で、たくさんの兵士たちが命を落とした。その中には、いろんな兵士がいた。先生たちのような、おとなの兵士。おまえらより、数歳、年上なだけの、若い兵士。

つらかったろうな……。どんなに家族のもとに帰りたかっただろう。おまえたちと同じように、家に帰って、親のつくった飯を食って、あたたかいふとんで寝たかっただろう。

だが……戦争は残酷だ。亡くなった若い兵士たちは、どんなに泣いてもさけんでも、二度と懐かしい人のもとへは帰れない……」


 あたし、真央ちゃんと有香ちゃんの間で、ぎゅっとひざを抱いた。

 授業中は、先生が黒板の前に立っていても、なにかとさわがしい、うちのクラス。

 なのに、今は、外のフクロウの声がきこえるくらい、全員静まり返っている。

 キャンプのレクリエーションのひとつで。これから、きもためし。

 まずは、雰囲気づくりに、先生が怪談話をしてくれてるんだけど。それがなかなか物悲しいお話で。


「時代がかわって、浅山にキャンプ場ができた。頂上には芝生の広場ができて、植物園もでき、登山道が整備された。だが、戦争のなごりの砲台跡や、砲弾倉庫跡は、まだ浅山のあちこちに、うずもれている。そして、夜になると……。ザ、ザ、と足音が山道をおりてきて……山の中から、黒い男の影が……」


 ガタっと、後ろから音がした。


 みんなの心臓、ビックーっ!!


「な、なにっ!? 」

「なんの音っ?」

「へ、へ、兵士の霊っ!? 」


 子どもたちの視線が、部屋の後ろにあつまっていく。

 その先にいるのは、ヨウちゃん。

「……え? いや、ごめん。たんに足、組みかえただけ」

「は~っ!?  なんだよ、葉児~」


 大岩が息ついて、ハァ~。


「うわ~っ! オレ、オバケが中に入ってきたのかと思っちゃった~」


 誠がおおげさに頭を抱えたから、みんなゲラゲラ。



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