
「だ、だけどさ。ヨウちゃん最近、男子たちともぜんぜん話してないじゃん。前はもっと、男子とも遊んでたでしょ。休み時間に、サッカーしたり。バスケしたり。そんなにずっと、ひとりでいたら、スナフキンみたいになっちゃうよ?」
「……は? スナフキン?」
「ムーミンのスナフキン。『ぼくは孤独になりたいんだ』ってヤツ。で、そのうち、『旅に必要なのは、口ずさめるひとつの歌さ』とか、言い出して……」
ぷっと、ヨウちゃんがふき出した。
あ……ほっぺた、桃みたい……。
「こらぁ~! 和泉ぃ~ サボってないで、もどってこいよ~。皮むいてくんないと、なべにジャガイモ、入れらんないだろ~?」
調理場のほうに顔をあげたら、誠がわたわた、おサルみたいに手をふってた。
「行けよ。呼んでるぞ」
ヨウちゃんがうつむいた。石膏みたいに硬いほおにもどっている。
「……うん」
立ちあがりかけたとき、自分のジャージのポケットからのぞいてる、布切れに気がついた。
そうだ……あたし、まだ、これをわたしてない……。
お腹に力を入れて、もう一度、ヨウちゃんのとなりにしゃがみ込む。
「ヨウちゃん。あたし……誠の告白ことわったよ」
「……えっ!? 」
バッと、ヨウちゃんがふり向いた。
ドキッとして、お尻をコンクリートのゆかに落としちゃう。
だって……そこまで反応するっ!?
反応した本人まで、自分の反応におどろいたみたい。まばたきして、琥珀色の目は、また、たき火のほうにもどってく。
「……どうして? せっかくの告白だろ? おまえらフィーリング合ってんのに。もったいねぇ」
「……だって。……あたしが好きなのは、ヨウちゃんだから……」

あらためて言ったら、ほっぺたが熱くって。あたし、丸くなって、自分のひざで顔を隠した。
ヨウちゃん、ただ、ゆらゆら燃える火を見つめてる。
だよね。
あたし……ひどいことしたもんね。
一度なくした信頼は、そうかんたんには取りもどせない。
すごくよくきく言葉が、こんなに心につきささるなんて思わなかった。
ピーラーを左手に持ちかえて。あたしは、自分の右のポケットをさぐった。
出てきたのはやっぱり、ちっさいぞうきんみたいな、ヘンな物体。
う……あやしすぎ。ぜったい、呪いの袋って思われる……。
「ヨウちゃん、これ。あげる」
なさけないから、目を見れなくて。顔、ひざにうずめたまんまで。
あたし、右手をのばして、サシェをさしだした。
「ネトルとヤロウのサシェ。ヘタクソだけど、中身はちゃんと本物だから。持ってると、恐怖心がやわらぐんだって」
どうせ受け取ってくれないに決まってるから、相手のひざの上に、強引に置いちゃう。
「勝手に書斎に入ってごめんなさい。それから、ヘアベルをつかったこともあやまります。あたし……人間として、ぜったいに、やっちゃいけないことをしました」
「和泉ぃ~。マジでホント、ジャガイモ必要~。お願いだから、帰ってきて~」
うわ。誠におがまれてるっ!
「ご、ごめんっ! もう、行くっ!! 」
あたしは、バッとヨウちゃんのとなりから、立ちあがった。
石みたいに動かないヨウちゃんの背中。
わかってる。
よろこんでもらうためにあげたんじゃない。
あたしは、あたしがあげたいから、あげたんだ!
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