《5》 決戦は卒業キャンプで 2 - ナイショの妖精さん2
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《5》 決戦は卒業キャンプで 2

  03, 2019 22:38
2019032703


「だ、だけどさ。ヨウちゃん最近、男子たちともぜんぜん話してないじゃん。前はもっと、男子とも遊んでたでしょ。休み時間に、サッカーしたり。バスケしたり。そんなにずっと、ひとりでいたら、スナフキンみたいになっちゃうよ?」


「……は? スナフキン?」


「ムーミンのスナフキン。『ぼくは孤独になりたいんだ』ってヤツ。で、そのうち、『旅に必要なのは、口ずさめるひとつの歌さ』とか、言い出して……」


 ぷっと、ヨウちゃんがふき出した。


 あ……ほっぺた、桃みたい……。


「こらぁ~! 和泉ぃ~  サボってないで、もどってこいよ~。皮むいてくんないと、なべにジャガイモ、入れらんないだろ~?」


 調理場のほうに顔をあげたら、誠がわたわた、おサルみたいに手をふってた。


「行けよ。呼んでるぞ」


 ヨウちゃんがうつむいた。石膏みたいに硬いほおにもどっている。


「……うん」


 立ちあがりかけたとき、自分のジャージのポケットからのぞいてる、布切れに気がついた。


 そうだ……あたし、まだ、これをわたしてない……。


 お腹に力を入れて、もう一度、ヨウちゃんのとなりにしゃがみ込む。


「ヨウちゃん。あたし……誠の告白ことわったよ」


「……えっ!? 」


 バッと、ヨウちゃんがふり向いた。


 ドキッとして、お尻をコンクリートのゆかに落としちゃう。


 だって……そこまで反応するっ!?


 反応した本人まで、自分の反応におどろいたみたい。まばたきして、琥珀色の目は、また、たき火のほうにもどってく。


「……どうして? せっかくの告白だろ? おまえらフィーリング合ってんのに。もったいねぇ」


「……だって。……あたしが好きなのは、ヨウちゃんだから……」



2019032702




 あらためて言ったら、ほっぺたが熱くって。あたし、丸くなって、自分のひざで顔を隠した。

 ヨウちゃん、ただ、ゆらゆら燃える火を見つめてる。


 だよね。


 あたし……ひどいことしたもんね。


 一度なくした信頼は、そうかんたんには取りもどせない。

 すごくよくきく言葉が、こんなに心につきささるなんて思わなかった。


 ピーラーを左手に持ちかえて。あたしは、自分の右のポケットをさぐった。

 出てきたのはやっぱり、ちっさいぞうきんみたいな、ヘンな物体。


 う……あやしすぎ。ぜったい、呪いの袋って思われる……。


「ヨウちゃん、これ。あげる」


 なさけないから、目を見れなくて。顔、ひざにうずめたまんまで。

 あたし、右手をのばして、サシェをさしだした。


「ネトルとヤロウのサシェ。ヘタクソだけど、中身はちゃんと本物だから。持ってると、恐怖心がやわらぐんだって」


 どうせ受け取ってくれないに決まってるから、相手のひざの上に、強引に置いちゃう。


「勝手に書斎に入ってごめんなさい。それから、ヘアベルをつかったこともあやまります。あたし……人間として、ぜったいに、やっちゃいけないことをしました」



「和泉ぃ~。マジでホント、ジャガイモ必要~。お願いだから、帰ってきて~」


 うわ。誠におがまれてるっ!


「ご、ごめんっ! もう、行くっ!! 」


 あたしは、バッとヨウちゃんのとなりから、立ちあがった。

 石みたいに動かないヨウちゃんの背中。


 わかってる。


 よろこんでもらうためにあげたんじゃない。


 あたしは、あたしがあげたいから、あげたんだ!



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